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イエローハット(9882)は、これからも増配を続けられそうか

📖 約21,100文字(まずは「30秒で要点」だけでも。じっくり読むと約28〜41分)

タイヤやオイルの交換でおなじみのカー用品店、イエローハット(9882)を、17期分の決算資料で見てみました。

☕ まずは30秒だけ

利益が減った年にも、この会社は配当を増やしてきました。2011年3月期から、16期続けてです。どうやって続けてきたんだろう——資料を読んでいて、いちばん気になったのはここでした。

イエローハット(9882)は、タイヤ・オイル・バッテリーの交換や車検を手がけるカー用品店です。株式分割をそろえた基準で2.5円だった年間の配当は、いま62円。この増配は、これからも続きそうか。増配が始まる前の、減配した2010年3月期までさかのぼって、17期分の決算資料で順番に確かめていきます。

(お忙しい方は、太字の見出しだけ拾えば30秒で大筋がつかめます。気になったら下へどうぞ。)

ざっくり言うと

イエローハットは、カー用品の販売と取付・車検を行う店を、グループで全国に936店(4つの業態の合計)展開する会社です。バイク用品と整備の「2りんかん」、バイク販売の「バイク館」、スポーツ自転車の「ワイズロード」を含みます。決算は3月です。

利回りは?

2026年3月期の実績配当62円を、株価1,785円(2026年8月28日の東京証券取引所の終値)で割ると、約3.4%です。会社が予想する2027年3月期の配当68円で計算すると、約3.8%です。(実績の配当と会社予想の配当で計算した参考の数字です。株価で変わりますし、将来の配当・利回りを約束するものではありません。いずれも税引前の数字です。)

配当は年2回で、基準日は例年3月末と9月末です。100株以上を1年以上持つ株主には、お買物割引券などの優待もあります。1年以上の継続保有の条件は2025年に新設され、2026年3月末の基準日から適用されています(会社が変更・廃止する場合があります)。

おさえどころ3つ

① 増配は16期連続。その前には、減配と赤字の時期がありました。

2009年3月期は赤字、2010年3月期には配当を12円から10円へ下げています(いずれも当時の実額)。そこから立て直し、利益が4分の1減った2015年3月期も、暖冬で冬タイヤが売れなかった2024年3月期も、配当は毎年増やしてきました。

② 稼ぎの主役はタイヤ・オイル・バッテリーと工賃。ただし直近は営業減益です。

店頭売上の71%を、工賃と消耗3品(タイヤ・オイル・バッテリー)が占めるまでになりました。一方で2026年3月期は、増収ながらコストの増加で営業減益。純利益の過去最高は、投資有価証券の売却益が押し上げたものでした。

③ 会社は総還元性向100%以上を掲げました。3年間の利益とほぼ同じ額を、配当と自己株買いで株主に返すという意味です。

中期経営計画の株主還元方針で、配当性向45%を目安、総還元性向は3年累計で100%以上です。そのために会社は、有利子負債がゼロだった財務を転換し、借入も使いながら還元と投資を進めると計画に明記しています。

この3つが、これからどうなるか。私が見ていくポイントは、📌の章にまとめました。まずは、この会社がどんな事業で稼いでいるのかから、順番に見ていきましょう。

(この記事は、ひとりの観察者ミーナの記録です。売買をすすめるものではありません。数字は会社の公表資料に基づきますが、正確性は保証しません。投資の判断はご自身で。)

🏢 イエローハットってどんな会社?

タイヤの履き替えやオイル交換で、黄色い看板の店に寄ったことがある方も多いと思います。買った商品をその場で取り付けてもらえるのが、この商売の入口です。

ひとことで言うと、「クルマの消耗品を売って、取り付けて、車検までお預かりする」会社です。1961年に東京で自動車用品の販売を目的に創業し(当時の社名はローヤル)、1975年に直営1号店を開きました。1997年に社名をイエローハットに変えています。「黄色い帽子」は通学の子どもがかぶる帽子が由来で、交通安全の願いが込められた名前です。決算は3月です。

事業は2つの区分で開示されています。主役は「カー用品・二輪用品等販売事業」で、売上の96%超を占めます。この中に入るのは、まずカー用品店のイエローハット765店(格安タイヤの「トレッド」を含みます)。そして、バイク用品と整備の「2りんかん」65店、バイク販売の「バイク館」78店、2025年に加わったスポーツ自転車の「ワイズロード」28店です。

もうひとつが「賃貸不動産事業」で、グループの店舗用の土地建物を貸す事業です。2026年3月期は、売上57.9億円に対して利益14.0億円。売上は全体の3%あまりですが、利益率の高い事業です。会社は、収益性が資本コストに見合わない(持ち続けるほどの利回りがない)物件は売却を進める方針も示しています。

売り方には特徴があります。全国の店の多くは、地域ごとの子会社やチェーン加盟店が運営していて、親会社のイエローハットはそこへ商品を卸しています。小売と卸売の両方を持つ形です。2026年3月期のカー用品・二輪用品等販売事業の売上は、1,654億円。主な内訳として開示されているのは、小売部門の1,149億円と卸売部門の460億円です(残りの内訳は開示されていません)。

店の持ち主も、入れ替わってきています。チェーン加盟店は、2019年3月期末の382店から339店へ減りました。かわりに、子会社が運営する店が346店から426店へ増えています(1店ずつの増減の内訳までは開示されていません)。加盟店が減れば、加盟店向けが中心の卸売部門は伸びにくくなります。実際、卸売部門の売上はこの5年ほぼ横ばいです。

店頭で何が売れているかを見ると、工賃(取付・車検・整備の作業料)と消耗3品で店頭売上の71%を占めます。2015年3月期は57%でした。10年あまりで「モノを売る店」から「作業とセットで頼む店」へ、中身が動いてきたことになります。この変化が配当にどう効いてきたのか、数字で確かめていきましょう。

📊 数字でみる ― 純利益は16.4億円から119.6億円へ

この17期で、売上は905億円から1,712億円へ、純利益は16.4億円から119.6億円へ増えました。1株あたりの配当は、株式分割をいまの株数にそろえた基準で、2.5円から62円になりました。

まずは全体像です。配当のほうが、利益より速く増えています。理由は配当性向(利益のうち配当に回す割合)にあります。出発点の2010年3月期は14.8%と低く、そこから2割前後、3割前後と段階的に上がり、2026年3月期は45.0%になりました。会社が配当の目安を段階的に引き上げてきた歴史で、くわしくは📖の章でたどります。

1株配当と純利益の推移(2010年3月期〜2026年3月期) 棒グラフが1株配当(右の目盛り・円・ゼロ起点・株式分割調整後)、折れ線が純利益(左の目盛り・億円・ゼロ起点)。1株配当は2.5円から62円へ17期一度も減っていない。純利益は16.4億円から119.6億円へ増えたが、2015・2017・2024年3月期は前の年を下回った。その年も配当は増えている。 00円 15億10円 30億20円 45億30円 60億40円 75億50円 90億60円 105億70円 120億80円 配当 62円 純利益 119.6億円 20102014201820222026 1株配当(右の目盛り・円・分割調整後)純利益(左の目盛り・億円)

(各年3月期。棒=1株配当〔右の目盛り・円〕、線=純利益〔左の目盛り・億円〕。どちらもゼロ起点です。1株配当は、2019年4月と2025年4月の株式分割〔各1株→2株〕をいまの株数にそろえた換算値です。出典:各年 決算短信)

表A 純利益・配当・配当性向・自己資本比率(17期)

純利益(億円) 1株配当(円・調整後) 配当性向 自己資本比率
2010/3 16.4 2.50 14.8% 43.7%
2011/3 29.1 4.50 15.0% 51.3%
2012/3 52.4 6.00 11.0% 54.1%
2013/3 60.6 8.00 12.3% 57.2%
2014/3 72.9 10.00 12.4% 64.1%
2015/3 55.4 11.50 19.2% 69.4%
2016/3 56.1 13.50 22.2% 72.6%
2017/3 55.8 15.00 24.8% 72.4%
2018/3 68.3 16.50 22.2% 73.0%
2019/3 73.2 18.00 22.6% 74.8%
2020/3 73.3 23.00 28.9% 76.9%
2021/3 85.4 27.00 29.1% 76.7%
2022/3 96.5 29.00 27.7% 77.6%
2023/3 106.6 31.00 26.8% 78.1%
2024/3 102.5 33.00 29.7% 80.8%
2025/3 112.6 50.00 40.5% 64.8%
2026/3 119.6 62.00 45.0% 59.8%

表Aを縦に読むと、配当の列は17期で一度も減っていません。純利益が前の年より減った年は3回あります(2015・2017・2024年3月期)。それでも配当は毎年増え、減益の年は配当性向が上がる形で吸収されています。もうひとつ目を引くのは、右端の自己資本比率です。43.7%から80.8%まで積み上がったあと、直近2期で59.8%まで下がりました。業績の悪化ではなく、会社が選んだ資本の使い方によるものです。🧭の章で見ていきます。

その配当を支えるキャッシュ・フロー(現金の出入り)も確かめたいので、表をもうひとつ用意しました。

表B キャッシュ・フローと配当の支え(17期)

営業CF(億円) 投資CF(億円) 現金期末(億円) 配当金総額(億円) DOE
2010/3 55.1 0.1 81.7 2.4 0.7%
2011/3 71.3 △14.5 18.1 4.3 1.2%
2012/3 61.7 8.0 58.4 5.7 1.4%
2013/3 111.7 △17.6 73.5 7.3 1.7%
2014/3 82.7 △10.4 72.8 9.0 1.8%
2015/3 45.5 △39.6 40.8 10.6 1.9%
2016/3 55.1 △36.4 23.1 12.4 2.0%
2017/3 75.6 △43.0 36.1 13.8 2.1%
2018/3 96.9 △44.7 73.8 15.2 2.2%
2019/3 105.7 △32.6 129.7 16.6 2.2%
2020/3 77.2 △107.7 81.7 21.2 2.6%
2021/3 193.5 △111.0 140.2 24.9 2.8%
2022/3 97.3 △96.6 109.0 26.7 2.8%
2023/3 135.7 △134.2 82.5 28.6 2.8%
2024/3 114.8 △113.0 48.3 30.5 2.7%
2025/3 162.7 △167.3 312.3 45.0 3.8%
2026/3 104.6 △89.8 397.1 53.4 4.4%

営業CFの列は、17期をとおして一度もマイナスがありません。本業で現金を稼ぐ力は、17期続いています。

ただ、この表でいちばん見てほしいのは、その隣の投資CFとの差です。この会社は、店舗の土地建物を自前で持ちます(土地の残高は2022年3月期に50.6億円、2023年3月期に74.8億円増えました)。だから、投資は毎年のように出ていきます。2020年3月期からは、その額が年90億円前後から167億円へ増えました。

稼いだ分と使った分を、4期分たしてみます。直近4期の営業CFは517.8億円、投資CFは504.3億円。本業で稼いで投資に使ったあとに残った現金は、4期合計で13.5億円です。 同じ4期に、配当157.5億円と自己株買い100.1億円を払っています。残った現金では、まったく足りません。この差を何で埋めたのかは、⚖️の章で見ます。

セグメント別(直近3期・億円)

カー用品・二輪 売上 同 利益 賃貸不動産 売上 同 利益
2024/3 1,407.2 130.0 59.1 14.7
2025/3 1,482.8 140.5 57.7 13.9
2026/3 1,654.8 136.8 57.9 14.0

もうひとつ、季節の話です。この会社の利益は、冬に山が来ます。2026年3月期でいえば、営業利益150.8億円のうち72.1億円が第3四半期(10〜12月)でした。スタッドレスタイヤなど冬季商品の比重が大きいためで、冬の気温が高い年は業績が振れやすい商売です(2016年・2024年3月期がその例でした)。

📖 増配の歩みを、会社の言葉でたどる

ここからは、各年の決算短信で会社自身がどう説明してきたかを、時系列でたどってみましょう。(この章の記述は各年の決算短信によります。配当は当時の実額に、株式分割をいまの株数にそろえた換算を添えて書きます。)

2010年〜2014年:赤字からの立て直し。タイヤと車検を強くする方針は、この時期に始まりました

出発点の2010年3月期は、立て直しの年でした。前の年は6.2億円の最終赤字で、配当はこの年まで3年続けて下がっています。会社は直営店をグループ内の地域会社へ移し、経費を見直して、営業利益を2.7億円から23.6億円へ戻しました。この年の短信にはもう「タイヤを中心とした消耗品販売の増強及び車検・カーメンテナンス等サービス部門のさらなる強化」と書かれています。いまの稼ぎ方の原点は、この苦しい年に置かれていました。

2011年3月期に配当は10円から18円へ(実額)。ここから続く増配の1年目です。

配当を支える利益のほうも、この4年で伸びました。会社は、カー用品店を運営するモンテカルロと、カー用品・バイク用品のドライバースタンド(いまの2りんかんイエローハット)を相次いで子会社化しました。出光興産との提携で、卸の販路も広げます。2014年3月期の純利益は72.9億円。出発点の2010年3月期が16.4億円ですから、4倍を超えました。

2015年〜2019年:利益は横ばい。それでも配当方針を2度引き上げました

2015年3月期は消費税増税の反動で純利益が24.0%減り、2016年・2017年3月期も利益は横ばいでした。それでも配当は増え続けます。

2016年3月期まではDOE(純資産配当率)1.5%を基準とする配当方針で、利益が振れても配当が続く仕組みでした。2017年3月期からは「連結配当性向25%を目指し」へ変更します。あいだの2018年3月期は、タイヤ値上げ前の駆け込みと寒波で営業利益が37.8%増えました。この伸びをはさんで2019年5月、会社は「30%を目指し」へもう一段引き上げます。利益が横ばいだった5年のあいだに、配当の目安は2度上がったことになります。(なお2019年4月に、株式を1株から2株に分けています。)

2020年〜2021年:コロナ禍。「クルマは生活インフラ」で最高益へ

2020年3月期は消費増税の反動と暖冬が重なりましたが、増益を確保して増配。そしてコロナ禍の2021年3月期、会社は「クルマは生活をする上で重要なインフラ」と位置づけて営業を続けます。感染対策としてクルマ・バイクでの移動需要が高まり、売上・利益とも過去最高を更新しました。

この年、海外の店舗はゼロになっています。2010年に20店あった海外店を少しずつ閉じ、国内に集中する形がここで固まりました。

2022年〜2026年:値上げが売上を押し上げ、配当性向は45%目安まで上がりました

タイヤメーカー各社の値上げが続き、値上げ前の駆け込みがタイヤ売上を押し上げて、2023年3月期は過去最高益。2024年3月期は、コロナ期に伸びたバイク用品の需要が落ち着き、暖冬で冬季用品が振るわず、春のタイヤ履き替えも低温と多雨で遅れて、純利益3.8%の減益。それでも配当は62円→66円(実額。分割をそろえた基準で31円→33円)へ増やしました。

2024年5月には、配当方針が「30%を目指し」から「30%以上を目安」へ変わります。2025年3月期は消耗品と工賃が伸びて最高益を更新し、期末配当を一気に30円上乗せして年100円(実額。分割をそろえた基準で50円)に。2025年1月公表の中期経営計画で「配当性向45%を目安、総還元性向を3年累計で100%以上」を掲げ、自己株買いも始めました。

2026年3月期の配当は62円。分割をそろえた基準で前期の50円から12円の増配です(実額では前期100円→今期62円)。ただしこの年は、増収ながら営業・経常は減益でした。減益の中で純利益が過去最高になった理由は、⚖️の章で見ます。

ここで、冒頭の話の答え合わせをしましょう。配当が2.5円から62円へ増えた中身は、2つでした。利益が7倍あまりに育ったこと。そして、配当性向を14.8%から45.0%へ段階的に引き上げてきたこと。それが、17期分の開示資料から分かりました。配当方針は、DOE基準から配当性向45%目安まで、段階を追って引き上げられてきました。どの変更も、会社自身の言葉で開示されています。

🧭 会社はこれからをどう描いているか

次は、会社が示している計画です。この章に出てくる目標や計画はすべて会社が公表しているもので、達成が約束されたものではありません。(出典:中期経営計画〔2025年1月31日開示〕、2026年3月期 決算短信・決算説明会資料、有価証券報告書 第68期)

3年後の目標は純利益118億円。1年目は、純利益は目標に届いて、営業利益は届きませんでした

中期経営計画(2026〜2028年3月期)は、いま2年目です。最終年度の目標は、売上高1,800億円・営業利益168億円・当期純利益118億円・ROE10%以上。ROEは、株主から預かった元手でどれだけ利益を出したかの割合です。

1年目の2026年3月期にも、単年の目標が置かれていました。売上1,700億円・営業利益159億円・純利益114億円です。結果は、売上と純利益が目標を超え(計画比100.8%と105.0%)、営業利益だけが届きませんでした(94.9%)。

営業利益が下回った理由として、会社は人件費や物流コストの上昇を挙げています。純利益が上回ったのは「主に投資有価証券の売却益により」と、有価証券報告書(年に1度、決算短信よりくわしく開示される法定の報告書です)に記されています。

計画の中身は、「クルマの総合メンテナンス企業」への転換です

会社は課題をこう書いています。「イエローハット=カー用品販売店という従来の認識が強く、取付・整備・車検といったカーメンテナンスができることの認知・訴求不足があった」。そこで、車が日常の移動手段である地域にローコストで出店し、オイル交換に来たお客さんをタイヤ交換や車検のリピートへつなげる計画を立てました。この転換に「2輪事業を含めたトータルサービスの提供」を合わせて、最終年度の純利益118億円をつくる、というのが会社の説明です。

この転換の進み具合をはかる目標として、会社は3つの数字を掲げています。

来た人に、もう一度来てもらう。 新しく会員になった方が1年以内に2回目の買い物をする割合(会社はF2転換率と呼びます)を、50%にする目標です。32%、30.6%と来て、直近は36.8%。いったん下がってから、戻してきた途中です。

消耗3品と工賃を、もっと売る。 タイヤ・オイル・バッテリーと工賃の売上を、1,029億円から1,130億円へ。

整備できる人と場所を、増やす。 整備士・検査員を1,579人から1,900人へ、車検・整備を担う指定工場・認証工場(国の指定・認証を受けて車検や分解整備を手がける工場です)を436店から520店へ広げる計画です。

3年で540億円入って、670億円使う。足りない130億円は、借入でまかなう計画です

3年間で入ってくる見込みは540億円。純利益340億円に、償却費や資産売却などを足した額です。使い道は670億円で、内訳は設備投資280億円・M&A枠50億円・株主還元340億円。足りない130億円は、借入でまかなうと明記されています。

自己資本比率が下がるのは、貯めた資本を取り崩すからではありません。自己資本比率は、総資産のうち自分の資本が占める割合です。会社の計画では、株主資本は2025年3月期と同じ水準のまま(利益とほぼ同じ額を株主に返すので、増えもしません)。いっぽう借入と投資で、総資産のほうは大きくなります。割合の分母だけがふくらむので、比率は下がる——という設計です。

会社は自社の株主資本コスト(株主が投資の見返りとして期待する利回りの水準)を7〜9%と示し、自己資本比率は最終的に50%程度までの縮減を掲げました。2026年5月には、75億円を上限とする自己株式の取得と、買った株をすべて消す消却も発表しています。

では、この計画は配当にとって追い風なのでしょうか。次の章で、両面から並べます。

⚖️ 気をつけたいところと、支えになりそうなところ

気をつけたいところ

① 配当性向は目安の45%に届き、今期の予想では45%を上回っています。ここから先の増配は、利益が会社の計画をどれだけ上回るかで決まります。

2026年3月期の配当性向は45.0%、2027年3月期の会社予想は47.7%と、目安の45%を上回る水準です。

ここでひとつ、計算をしてみます。かりに中計最終年度(2028年3月期)が目標どおりだったとすると——

純利益118億円 × 配当性向45% = 配当総額 約53億円
約53億円 ÷ 約7,956万株 = 1株あたり 約67円

株数は、2026年3月末の自己株式を除く発行済株式総数(約8,556万株)から、発表された取得枠の上限600万株がすべて消却(買い戻した株を帳簿から消すこと)されたと置いた数です。会社の開示値から算出した、前提つきの試算で、前提が変われば数字も変わります。この約67円は、2027年3月期の予想68円とほぼ同じ水準です。

つまり、計画どおりの利益で止まれば、配当もいまの水準で並ぶ計算になります。配当性向を引き上げることで増配してきた分は、目安の45%に届いたことで小さくなりました。ここから先の増配は、利益が計画をどれだけ上回るかにかかります。ただし中計1年目の純利益119.6億円は、最終年度の目標118億円をすでに超えています。利益が計画を上回る年が続けば、さきほどの67円より上に行く計算になりますし、下回ればこの試算も下がります。だから私は、利益が計画に対してどれだけ上振れるかを、これから見ていきます。

② 営業利益は、前期に続いて今期の第1四半期も減っています。原因には一時的な費用だけでなく、来期以降も毎年かかり続ける費用が含まれます。

2026年3月期は営業利益2.4%減、2027年3月期の第1四半期も16.9%の減益でした。2026年3月期に会社が挙げた要因のうち、物流拠点の移転費用は、引っ越しにともなう一時的なものです。一方で、人件費の上昇と、新しい物流拠点や店舗の減価償却費、ワイズロード子会社化にともなうのれんの償却費は、来期以降もかかり続けます。のれんの償却費とは、会社を買った金額のうち相手の純資産を上回った分を、毎年すこしずつ費用にしていくものです。しかも減価償却費は、会社計画ではさらに増える見込みです。一時的な費用なら、翌年には消えます。でも毎年かかり続ける費用は消えません。売上や利益率で吸収していけるかどうか、という種類の費用です。

費用については、もうひとつ、金額がまだ読めないものがあります。連結子会社2りんかんイエローハットのサーバーが不正アクセスを受け、個人情報が漏れた可能性が2026年5月に開示されました。会社は次の期の業績への影響を「現時点では業績予想に織り込んでおりません」としています。いま出ている減益の数字には、この分は入っていません。

③ 純利益は過去最高でしたが、本業のもうけは減っていて、持っていた株式や不動産を売った一時的な利益が押し上げていました。

2026年3月期は、本業のもうけ(営業利益)も経常利益も減っています。それでも純利益が過去最高になったのは、投資有価証券の売却益11.6億円などで、特別損益(その期かぎりの臨時の利益や損失のことです)が前年から8.8億円改善したためです。その純利益を理由に、期末の配当は4円上乗せされました(会社の説明は「親会社株主に帰属する当期純利益が当初予想を上回る見込みとなったため」)。

同じことが、続く第1四半期にも起きています。営業16.9%減益に対して、純利益は6.3%の増益。理由は「収益性が資本コストに見合わない不動産」(持ち続けるほどの利回りがない、という会社の言い方です)の売却益です。

配当性向のもとになるのは純利益です。その純利益を、2期続けて本業の外の利益が支えた形です。資産の売却は中計に沿った行動ですが、売れる資産には限りがあります。

④ 3年間の計画は、投資と還元をあわせた使い道が稼ぐ見込みより130億円大きく、足りない分は借入で補う設計です。

🧭の章で見たとおり、3年間の使い道670億円は、入ってくる見込みの540億円より130億円大きい設計です。足りない分は有利子負債(利息のつく借入)でまかなうと、会社は明記しています。還元のためだけに借りるのではなく、店舗や物流への投資も含めた計画全体を、借入で支える設計です。

この設計は、もう数字にあらわれています。直近4期で、本業で稼いだ現金から投資を引いて手元に残ったのは13.5億円でした。同じ4期に、配当と自己株買いで払ったのは257.6億円です(📊の表Bより算出)。その差を埋めたのが、手元の現金と借入でした。2024年3月期末にゼロだった有利子負債が530億円になっているのは、この4期に投資と還元の両方を続けた結果です。手元の現金は397億円ですから、差し引きでは借入のほうが大きい状態です。会社が資本コストを示したうえで選んだ道ですが、金利や業績の前提が変わったときには、投資か還元のどちらかが調整の対象になりうる構図です。

⑤ 利益の山は冬のタイヤ商戦にあります。配当性向が45%まで上がったいまは、暖冬の年の利益の落ち込みが、そのまま配当の余裕を削ります。

この会社の利益の山は冬にあります。スタッドレスタイヤなど冬物の売れ行きが、その年の気温に左右されるためです。実際、冬の気温が高かった2016年3月期の営業利益は3.8%減。暖冬だった2024年3月期の営業利益も5.1%減でした。天候は、誰にも読めません。

そして配当性向45%とは、利益の45%をすでに配当に使っているという意味です。残りの55%が、減益の年に配当を守るための余裕にあたります。配当性向が14.8%だった2010年ごろに比べ、この余裕は小さくなりました。利益が振れると、その振れは配当の余裕にそのまま響きます。私は、暖冬になった年に、この余裕がどこまで残るかを見たいと思います。

支えになりそうなところ

① 利益が減った年も、16期にわたって増配を続けてきました。配当方針を変えるときは、そのつど開示で説明しています。

「16期連続増配」は、会社自身が決算説明会の資料で示している数え方です。私が確認した短信でも、2011年3月期からの16期は配当が毎年増えていました。純利益が前の年より減った3回(2015・2017・2024年3月期)も、です。

配当方針は、この間に何度か変わっています。2016年・2019年・2024年の変更では「配当方針の変更に関するお知らせ」という文書が開示され、何をどう変えたのかを読むことができます。有価証券報告書にも「安定的な利益配分を継続して行う」という基本方針が書かれています。増配の実績と、それを説明する文書がそろっている——それがこの会社の記録です。

ただし、減配しないことを約束する累進配当の文言は、いずれの開示にも見当たりませんでした。※過去の実績と会社の方針は、将来の配当を約束するものではありません。方針そのものも、会社の判断で変わりえます。

② 借入530億円を積んだあとも、自己資本比率は59.8%。出発点の2010年より高い水準です。

17期をさかのぼると、出発点の2010年3月期の自己資本比率は43.7%でした。⚖️の章で見た借入530億円を積んだあとの59.8%は、それより高い水準です。会社が計画で目安に置く50%程度までも、まだ幅を残しています。

本業の現金創出も、17期続けてプラスです。直近4期は投資と還元で手元に残る分が薄くなっていますが、稼ぐ力そのものが崩れた年はありませんでした。投資と還元を同時に続けられているのは、積み上げてきた資本と稼ぐ力に余裕があるからだと、私は見ています。

③ 稼ぎの中心は、消耗3品と工賃へ移りました。店頭売上に占める割合は、10年あまりで57%から71%へ上がっています。

消耗3品はタイヤ・オイル・バッテリー、工賃は取付・車検・整備の作業料。どちらも会社の説明会資料にある区分の言葉です(57%は2015年3月期、71%は2026年3月期の値です)。車検の台数も直近の年で9.9%増え、会社は「入庫車両へのアプローチや見積もり強化により」と説明しています。古い車が増え、整備を頼める先が減るという外側の条件だけでなく、店の取り組みが積み重なった数字です。この構図が続くかは、🔍の章の数字と合わせて見ていこうと思います。

📌 次に見ようと思っているポイント

これからの決算で、私はこんなところを見ようと思っています。予想ではなく、「どの資料の、どの数字を見るか」の話です。

① 消耗3品と工賃の売上が、計画の1,130億円へ近づいていくか。

半期ごとの決算説明会資料で、リピート率・車検台数と一緒に開示されます。2026年3月期は1,029億円でした。1,130億円は、当初計画の1,000億円から引き上げた目標です。残り2年で約100億円、1年あたり50億円ほどの上積みが要る計算になります(開示値から算出)。

なぜここを見るか。増配の続きは、利益が計画を上回れるかにかかっています(⚖️①)。そしてその利益を、会社は「オイル交換から車検へつなげるリピートの積み上げ」で作る計画だからです。この売上が計画のペースで積み上がっていれば、利益の土台は計画どおり。逆にここが伸び悩んだまま純利益だけが目標に届いた年は、売却益の側(次の②)を先に確かめようと思っています。次の中間決算は、例年11月上旬です。

② 2027年3月期の利益が、本業で伸びるのか、売却益で伸びるのか。

決算短信の損益計算書で、営業利益と純利益、それに特別利益の内訳を見ます。通期の会社予想は営業利益160億円・純利益122億円・配当68円で据え置きです。

見たいのは、水準より中身です。⚖️③のとおり、直近2期の純利益は株式や不動産の売却益が押し上げました。もし今期も、営業利益が届かないまま売却益で純利益が122億円に乗る形が続くなら、注意のサインです。⚖️③で書いたとおり、売れる資産には限りがあるからです。逆に営業利益が計画に乗ってくれば、増配の土台は本業に戻ってきたと読めます。中間は11月、本決算は2027年5月です。

③ 上限75億円の自己株買いが予定どおり進み、買った株が消却されるか。

毎月開示される「自己株式の取得状況に関するお知らせ」と、2027年3月23日に予定される消却で確かめられます。2026年5月発表の取得枠は上限75億円、期間は2027年2月までです。

なぜ見るかというと、総還元性向「3年累計100%以上」の実行が、この自己株買いに乗っているからです。⚖️④のとおり、この計画は投資とあわせて借入で支えられています。もし取得のペースが目立って落ちる月が続いたら、還元と投資のどちらかを調整し始めたサインかもしれません。そう思って、宣言の側だけでなく、実行の側も見ていくことにしました。

もし「ここも見ると良いよ」という数字をご存じの方がいらっしゃいましたら、教えていただけるとうれしいです。

🔍 もう少し深く ― カー用品店の土台は、どうなっているのか

急ぎの方は、この章を飛ばして「おわりに」へどうぞ。🧭の章で会社が挙げた目標のうち、外の統計で土台を確かめられるのは2つ。消耗3品と工賃で稼ぐことと、整備できる人と場所を増やすことです。この2つの土台を、会社の資料の外側——公的な統計の推移で確かめます。

会社の数字 ― 車検と工賃が伸びている

まず会社側の実測から。2026年3月期のイエローハット店頭では、タイヤの売上が前年比10.2%増、工賃が8.9%増、車検の台数が9.9%増えました(新しい店を含む全店の数字です。前からある既存店だけで見ても、工賃は7.7%増でした)。会社が「クルマの総合メンテナンス企業」と呼ぶ方向に、実際の数字も沿って動いています。では、この動きは世の中の流れに乗ったものなのでしょうか。

土台① 新車は30年近くで4割あまり減った。それでも、車はなくなっていない

新車から見ます。自動車検査登録情報協会の統計によると、乗用車(軽自動車を除く)の新車台数は、1996年度の約461万台から2024年度は約259万台へ、4割あまり減りました。ところが、走っている車の数は減っていません。乗用車の保有台数(こちらは軽自動車を含む集計です)は、2015年3月末の6,051万台に対して2025年3月末は6,206万台。10年で2.5%増の、ほぼ横ばいです。

新しく売れる車が4割あまり減ったのに、車の総数は減っていません。ただし、この2つの数字は集計の範囲が違うので(新車台数は軽自動車を除き、保有台数は含みます)、そのまま引き算はできません。1台の車が前より長く使われるようになったことは、次の平均車齢の統計にはっきり出ています。

土台② 車は年をとっていく ― 平均車齢は33年連続で上昇

同じ協会の統計で、乗用車(軽自動車を除く)の平均車齢——人間でいう平均年齢です——は、2025年3月末で9.44年。33年連続で上がり続けていて、10年前より1.15年、2000年(5.84年)と比べると3.6年の高齢化です。登録から10年半たった車も、7割超がまだ現役で走っています(残存率71.6%)。

車が古くなるほど、タイヤやバッテリーの交換、車検・整備の出番は増える方向に働きます。ここで🧭の計画と重ねてみます。平均車齢は、この10年で8.29年から9.44年へ上がりました(2015→2025年3月末)。ほぼ同じ時期に、会社の工賃・消耗3品比率は57%から71%へ上がっています(2015→2026年3月期)。会社が消耗3品と工賃へ軸足を移してきた歩みは、この統計と同じ向きです。

土台③ 直す仕事の担い手は、細り始めている

では、その古い車を誰が直すのか。まず、場所です。国の認証を受けた整備事業場は2025年6月末で92,251か所、前年比0.14%減にとどまりました(日本自動車整備振興会連合会の調査です)。数そのものは、まだ大きくは減っていません。

減っているのは、人の側です。整備士など整備要員の平均年齢は、2011年度の42.8歳(国土交通省の資料。出所は日本自動車整備振興会連合会の白書です)から2022年度には46.7歳へ上がり、同連合会の2025年度の調査では47.7歳になりました。次の担い手も減っています。自動車整備専門学校の入学者は、2003年度の12,394人から2021年度は6,536人と、18年でほぼ半分です(国土交通省の資料より)。

車の近くにあった給油所も、減り続けています。資源エネルギー庁の集計で、2020年度末の29,005か所から2024年度末は27,009か所へ、毎年2%弱のペースです。会社も中期経営計画で、整備を行うカーディーラーは4年間で4%減、セルフを除いた給油所は10年間で35%減と、同じ向きの数字を挙げていました。

場所の数はまだ保たれているのに、働く人は減っていきます。そのなかで整備士・検査員を1,579人から1,900人へ増やすという🧭の計画は、世の中の動きと逆を向いています。実行できれば、減った担い手の分の仕事が残った店に集まる——会社が「残存者利益」と呼ぶ構図に近づきます。だから私は、会社が開示する整備士数と、車検・整備を担う指定・認証工場の店数の進み具合を、この計画のいちばん難しい部分として見ています。

測れなかった土台 ― カー用品市場の規模は、統計で確かめられない

カー用品の市場全体の規模は、公的統計からは取り出せませんでした(会社自身は有価証券報告書で、国内のカー用品市場は縮小の傾向にあると書いています)。二輪・自転車のお店の採算も、セグメントが一体で開示されているため分かりません。EVが広がったときにオイル交換の需要がどう変わるかも、いまの統計では測れません。かわりに追える数字が、会社が開示する車検台数と消耗3品+工賃の売上です。土台の変化は、まずこの2つに表れると考えています。

☕ おわりに

「イエローハット(9882)は、これからも増配を続けられそうか」。この問いに、未来を予測して答えることはできません。

確かなのは、減配から再出発した2011年3月期以降、16期続けて配当を増やしてきた実績と、その配当方針を段階ごとに開示してきた歴史です。気がかりなのは、配当性向の引き上げという増配の追い風がひと区切りつき、会社計画の利益のままでは次の増配が計算に乗らないこと。そして直近2期は、本業の外の売却益が純利益と配当を支えたことです。

私が見ていくものさしは、利益の中身です。増配の主役は、これからは配当性向でなく利益に交代する、と私は読んでいます。その利益を会社は、オイル交換から車検へつながるリピートの積み上げで作る計画です。だから、消耗3品と工賃の売上、車検台数、リピート率という、会社が開示する目標の数字を、半期ごとに確かめていきます。

みなさんは、どう考えますか。

どなたかの参考になればうれしいです🌵

出典・一次ソース

免責

この記事は、個人の観察記録であり、投資助言や特定の銘柄の売買の推奨ではありません。数値は記事中に明記した時点のもので、内容の正確性・最新性を保証するものではありません。過去の実績は将来の配当や株価を保証せず、会社の計画・目標は達成が約束されたものではありません。記事中の試算は前提つきの参考値です。投資の判断はご自身でお願いします。

著者:ミーナ/更新日:2026-08-30

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