JSP(7942)は、これからも増配を続けられそうか
カップ麺の容器から車のバンパーの中身まで、暮らしのあちこちにある「発泡プラスチック」の会社を、17年分の決算資料で見てみました。
☕ まずは30秒だけ
JSPの純利益は、9年前につけた最高益にまだ届いていません。それなのに、配当は当時の1.8倍になりました。利益が増えていないのに、配当が増える——どういうことなんだろう? と気になって、17年分の決算短信を読みました。この記事で、順番に確認していきますね。
(お忙しい方は、ここだけ読めば大筋がつかめます。気になったら下へどうぞ。)
ざっくり言うと
JSPは、プラスチックを泡のように膨らませた「発泡プラスチック」の素材メーカーです。この17年、減配は一度もありません。2024年、会社は配当方針に「純利益の35%以上の配当性向(利益のうち配当に回す割合)を目安にする」という基準を加え、そこから増配が続いています。
利回りは?
2026年3月期の実績配当90円を、株価2,450円(2026年7月10日の東京証券取引所の終値)で割ると、約3.7%です。会社が予想する2027年3月期の配当100円で計算すると、約4.1%です。(前者は実績の配当、後者は会社予想の配当で計算した参考の数字です。株価で変わりますし、将来の配当・利回りを約束するものではありません。いずれも税引前の数字です。)
配当は年2回(中間と期末)、3月期決算の会社です。期末配当の権利が確定するのは、例年3月末です。
おさえどころ3つ
① 17期連続で減配なし。純利益が68.5億円から25.3億円へ6割減った5年間(2019年3月期〜2023年3月期)も、配当50円から下げませんでした。
② 2024年4月、会社は配当方針を変えました。安定した配当という従来の考え方は残したまま、「配当性向35%以上」の目安を加えました。その前の2024年3月期には、約60億円の自己株式取得も行っています。増配が加速したいちばんの理由はこの変更にある、と私は見ています。
③ 今期(2027年3月期)の会社予想は減益です。それでも配当は100円へ、4期連続の増配を予定しています。新しい方針になってからの減益は、今期が2度目です。1度目(2025年3月期)は、減益でも増配しました。今期の減益幅は1度目より大きい予想で、予想どおりなら配当性向はおよそ52%まで上がる計算です(私の試算です。くわしくは本文で)。
ただ、手放しで安心という話ではありません。気をつけたい点も、後半でしっかり並べます。
(この記事は、ひとりの観察者ミーナの記録です。売買をすすめるものではありません。数字は会社の公表資料に基づきますが、正確性は保証しません。投資の判断はご自身で。)
🏢 JSPってどんな会社?
お湯を注ぐカップ麺の容器。スーパーの鮮魚コーナーの奥に積んである白い箱。住宅の壁の中の断熱材。それから、車のバンパーの内側に入っている、衝撃を受け止める芯材。ふだん意識することはあまりないけれど、思い返すと毎日どこかで触れている素材だと思います。
こうした「プラスチックを泡で膨らませた素材」を、開発から製造・販売までやってきたのが、JSPという会社です。
ひとことで言うと、プラスチックに気泡を含ませて、軽くて、衝撃や熱に強い素材につくり変える会社です。泡の分だけ材料が少なくて済むので、軽くなるうえ、資源の節約にもなります。
稼ぎ方は大きく2本です。1本目は「押出事業」。即席麺や弁当の容器になる食品用シート、広告のディスプレイ材、そして住宅用の断熱材「ミラフォーム」などを、主に国内でつくって売ります。
2本目は「ビーズ事業」。発泡ポリプロピレン「ARPRO(アープロ)」という粒状の素材を、世界各国の工場でつくっています。使い道は自動車のバンパー芯材やシートの芯、部品を運ぶ通い函(工場の間を行き来する輸送箱)などです。冒頭の魚箱のような発泡スチロール製品(スチロダイア)も、このビーズ事業の仲間です。会社の資料によると、ARPROは全世界で50%近い市場シェアがあるそうです。
規模感でいうと、2026年3月期の売上高は1,455億円。そのうちビーズ事業が959億円と、全体の3分の2を占めます。国内の暮らしに根づいた押出事業と、世界の自動車産業と一緒に動くビーズ事業。この2本立てを頭に入れて、まずは全体の数字から見てみましょう。
📊 数字でみる ― 利益は大きな谷を越えて回復した
まず全体の形から。17年で売上高は816億円から1,455億円になりました(2022年3月期に会計基準が変わったため、あいだをまたぐ比較は参考値です)。純利益は2017年3月期に73億円の最高益をつけたあと、5年間で25億円まで減りました。そこから64億円まで戻り、いったん51億円に下がって、2026年3月期は66億円。利益は、山も谷も大きく動いてきました。
一方の配当は、19円から90円へ。減配した年は一度もありません。利益の谷の間も横ばいを続け、谷を抜けたところで増え始めました。この「利益は上下、配当は階段」の形が、この会社のいちばんの特徴だと私は見ています。
(各年3月期。棒=1株配当〔右の目盛り・円〕、線=純利益〔左の目盛り・億円〕。どちらもゼロ起点です。2010年3月期の配当19円には記念配当5円を含みます。2022年3月期から「収益認識に関する会計基準」が適用されています。出典:各年 決算短信)
表A 純利益・配当・配当性向・自己資本比率(17期)
| 期 | 純利益(億円) | 1株配当(円) | 配当性向 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|
| 2010/3 | 32.1 | 19※ | 18.4% | 50.1% |
| 2011/3 | 48.8 | 30 | 18.6% | 49.2% |
| 2012/3 | 31.0 | 30 | 28.9% | 50.2% |
| 2013/3 | 33.2 | 30 | 26.9% | 52.2% |
| 2014/3 | 44.0 | 30 | 20.3% | 53.4% |
| 2015/3 | 40.4 | 30 | 22.1% | 56.0% |
| 2016/3 | 59.1 | 40 | 20.2% | 59.0% |
| 2017/3 | 73.0 | 50 | 20.4% | 64.1% |
| 2018/3 | 68.5 | 50 | 21.7% | 63.3% |
| 2019/3 | 43.1 | 50 | 34.6% | 62.1% |
| 2020/3 | 36.4 | 50 | 41.0% | 63.4% |
| 2021/3 | 30.2 | 50 | 49.4% | 63.9% |
| 2022/3 | 28.9 | 50 | 51.5% | 63.9% |
| 2023/3 | 25.3 | 50 | 58.9% | 63.5% |
| 2024/3 | 63.9 | 65 | 29.3% | 62.8% |
| 2025/3 | 50.7 | 80 | 41.4% | 65.6% |
| 2026/3 | 66.0 | 90 | 35.7% | 65.9% |
- 数字はすべて各年の決算短信より。純利益は百万円開示を四捨五入で億円にしています
- ※2010/3期の19円には、東証上場20年の記念配当5円が含まれます
- 配当性向=利益のうち配当に回す割合。会社開示の値です(2016/3期のみ翌年短信の前期欄より)
- 自己資本比率=総資産のうち、借入ではない自前のお金の割合
- 2022/3期から「収益認識に関する会計基準」が適用され、売上高はそれ以前と単純比較できません
表Aでひとつ、目にとまる列があります。配当性向です。配当50円のまま利益が減っていった時期に、この割合がどんどん上がっていきました。これが、会社が「もっと配ろう」と決めた結果ではなかったこと——その順番は、後の章でたどりますね。
お金の流れも見ておきたいので、表をもうひとつ置きます。
表B お金の流れ(直近10期)
| 期 | 営業CF(億円) | 投資CF(億円) | 現金残高(億円) | 配当総額(億円) |
|---|---|---|---|---|
| 2017/3 | 106.9 | △61.9 | 79.7 | 14.9 |
| 2018/3 | 108.5 | △76.6 | 108.1 | 14.9 |
| 2019/3 | 73.9 | △103.7 | 90.8 | 14.9 |
| 2020/3 | 114.8 | △124.1 | 75.8 | 14.9 |
| 2021/3 | 122.1 | △51.7 | 122.8 | 14.9 |
| 2022/3 | 59.7 | △58.9 | 105.2 | 14.9 |
| 2023/3 | 87.3 | △64.8 | 147.0 | 14.9 |
| 2024/3 | 156.7 | △80.6 | 146.5 | 17.9 |
| 2025/3 | 89.0 | △86.1 | 119.3 | 21.0 |
| 2026/3 | 163.5 | △85.7 | 165.7 | 23.6 |
- 各年の決算短信より。△はマイナス(支出)。四捨五入で億円にしています
- 営業CF=本業で稼いだ現金。投資CF=工場や設備などへ使った現金
本業の現金収入(表の「営業CF」)は、この10期でいちばん少ない年でも約60億円。配当に使う総額は、増えた今でも23.6億円です。利益が谷だった年も、配当の支払いが本業の現金収入を上回ったことは一度もありません。配当の原資という意味では、余裕を残した配り方が続いてきました。
セグメント(2区分・直近2期)
| 期 | 押出 売上 | 押出 利益 | ビーズ 売上 | ビーズ 利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2025/3 | 494億円 | 16.5億円 | 929億円 | 63.7億円 |
| 2026/3 | 496億円 | 20.6億円 | 959億円 | 66.3億円 |
- 各年の決算短信のセグメント情報より。利益はセグメント利益(全社費用を差し引く前の値)。四捨五入で億円にしています
- 2025/3期にセグメント区分が変わったため、同じ区分で比べられる2期のみ載せています
利益の大部分はビーズ事業、つまりARPROを中心とする海外主体の事業から来ています。押出事業は、売上は大きい一方で、利益率は直近期で4%台です。ただ、会社はここを高付加価値製品で厚くしようとしていて、2026年3月期には、その利益が前期比25.1%増えました(くわしくは後ほど)。
📖 減配なしの17年を、会社の言葉でたどる
ここからは、各年の決算短信で会社自身がどう説明してきたかを、時系列でたどっていきましょう。
2010年〜2011年:リーマン・ショックからの回復と、30円への一歩
2010年3月期は、金融危機のあおりで減収になりました。それでも「コスト低減が一段と進展した」ことなどにより営業利益は前年の2倍になった、と会社は説明しています。この年の配当は19円。東証上場20年の記念配当5円を含む数字でした。翌2011年3月期は売上・利益とも大きく回復し、配当は30円へ。期末には東日本大震災が起き、震災関連の特別損失を計上しながらの増配でした。
2012年〜2015年:30円を続けた4年間
震災後の電力問題、円高、そして原燃料価格の上昇。この時期の短信には毎年のように「原材料価格の上昇」「価格是正の遅れ」という言葉が出てきます。利益は31億〜44億円の間を行き来しましたが、配当は30円のまま据え置かれました。
2016年〜2018年:2年連続の最高益と、50円への引き上げ
2016年3月期、原料価格の下落で採算が改善し、減価償却の方法を変えた効果もあって、営業利益は前年の1.6倍になりました。翌2017年3月期は「いずれの利益も前連結会計年度に引続き最高益更新」(短信の原文です)。配当は40円、そして50円へと2段階で引き上げられます。この期間は「利益が増えたから配当も増える」という、わかりやすい関係でした。
2019年〜2023年:5年連続の減益。それでも50円
ここからが、この会社の配当を語るうえで欠かせない5年間だと思っています。
純利益は68.5億円から25.3億円まで、5年連続で減りました。会社はのちに中期経営計画の資料で、この時期を「原材料価格などの上昇と価格転嫁の遅れや、主にアジア地域における収益性の低下などにより利益が低下」と自ら総括しています。コロナ禍による自動車工場の停止、原料や電力費の高騰に加え、事業の撤退や減損といった特別損失も重なりました。
それでも、配当は50円のまま据え置かれました。
結果として何が起きたか。配当性向が、21.7%から58.9%まで上がりました。会社が「もっと配ろう」と決めたのではなく、配当を下げないと決め続けた結果として、この割合が上がっていったのです。利益が3分の1近くまで減る中でも、年間約15億円の配当を毎年続けました。株主との約束を大切にしてきた会社なのだと、この5年間の数字から私は受け取りました。
2024年〜2026年:利益の回復と、配当方針の変更
2024年3月期、営業利益は前期の2.6倍になりました。海外での販売増加や製品価格の改定、コスト削減が効いた、というのが会社の説明です。回復の中身を数字で分けると、営業利益の増加分46億円のうち45億円がビーズ事業でした。世界の自動車部品などに使われるARPROを中心とした事業が、回復の主役だったことになります。
そしてこの決算発表と同じ日(2024年4月30日)、会社は増配と株主還元方針の変更(あわせて株主優待制度の一部変更)を公表しました。新しい方針は次のとおりです(会社の原文です)。
「安定的な配当の継続を重視するとともに、資本効率の向上と株主還元の充実を図ることを基本方針とします。具体的には、連結業績と将来の事業展開に必要な内部留保と株主還元のバランスに留意しつつ、連結当期純利益35%以上の配当性向を目安として、総合的に決定する方針としております」
安定した配当という考え方は残したまま、「35%以上の配当性向」という目安が加わりました。配当はここから65円、80円、90円と3期連続で増えています。2025年3月期は減益予想で始まり実際に2割の減益でしたが、それでも80円への増配でした。
もうひとつ、同じ2024年3月期に、会社は約60億円の自己株式取得(自社の株を買い戻すこと)を行っています。短信には、取得資金を長期の借入でまかなったと記されています。買い戻した株式は2026年3月期に消却され、発行済株式数は3,141万株から2,621万株へ減りました。
冒頭の疑問——利益は最高益に届かないのに配当は1.8倍——の答え合わせです。1株あたりの利益は、この9年でほぼ横ばいです(244.94円→251.92円)。会社全体の利益が1割減っても1株あたりが減らなかったのは、株式の数が減ったからです。そのうえで、配当性向が20.4%から35.7%へ、1.75倍になりました。配当1.8倍の正体は、この2つの掛け算です(1株あたりの利益が約1.03倍、配当性向が約1.75倍。掛け合わせて約1.8倍です)。
🧭 会社は、これからをどう描いているか
次は、会社が示している計画を見てみましょう。この章に出てくる目標や計画はすべて会社が公表しているもので、達成が約束されたものではありません。出典は中期経営計画「Change for Growth 2026」と2026年3月期の決算説明資料です。
会社はいま、長期ビジョン「VISION 2027」の最終段階として、中期経営計画「Change for Growth 2026」を進めています。最終年度である2027年3月期の目標は、売上高1,600億円、営業利益100億円、ROE(自己資本利益率=自前のお金でどれだけ利益を生んだか)7%以上。柱は3つです。
① ARPROを世界でさらに広げる。 販売数量を23%増やす計画です(2024年3月期比)。会社にとって初のインド工場(プネ)とメキシコ第2工場を稼働させ、リサイクル原料を使ったグレードにも力を入れています。
② 住宅断熱材は「高付加価値品」で。 2025年4月から、原則すべての新築住宅・建築物に省エネ基準への適合が義務づけられました(国土交通省)。会社はこれに合わせ、断熱性能の高い「ミラフォームラムダ」や、図面に合わせて切断済みで届くプレカット品の販売数量15%増を掲げています。
③ ディスプレイ用の保護材と、新しい事業。 テレビやモニターのパネル(FPD=フラットパネルディスプレイ)を運ぶときの表面保護材を21%増やし、出資先の射出成形事業などで売上50億円の新しい領域を育てる計画です。
配当については「配当性向35%以上を目安」を掲げ、会社は2027年3月期に年間100円(4期連続の増配)を予定しています。
ひとつ、私が良いなと思った点を書かせてください。この中期経営計画の資料には、前の中期経営計画の結果が数字つきで載っています。4つの成長分野の販売数量は「23%増の計画に対して実績9%増」のように、計画に届かなかったことを会社自身が開示し、「コロナ禍からの回復を想定した目標設定」だったという理由も添えています。届かなかった数字を次の計画書にそのまま載せるのは、誰にでもできることではないと思います。なお、新しい計画のARPRO「23%増」は、前回届かなかった水準に、もう一度挑む目標です。
そのうえで、直近の事実も並べます。会社が示した2027年3月期の業績予想は、売上高1,640億円(増収)に対し、営業利益70億円の減益予想です。中期経営計画の最終年度目標である営業利益100億円との間には、30億円の開きがあります。ROEも、目標の7%以上に対して2026年3月期実績は6.3%、今期の会社予想は4.6%。会社自身が「株主資本コスト(株主が期待する利回りの目安)は6〜7%程度」と見積もっているので、今期予想はそれを下回る水準です。目標も予想も、どちらも会社自身が出している数字です。この開きをどう縮めていくのかを、私も見ていきたいと思っています。
⚖️ 気をつけたいところと、支えになりそうなところ
ここからは、リスクや弱みを並べてみます。それぞれ、最初の一行に要点を書いておきますね。
気をつけたいところ
① 今期は減益予想で、中期経営計画の目標との間に開きがあります。 営業利益70億円の予想に対し、計画の最終目標は100億円。この差がどう縮まっていくのか、四半期ごとの決算で確かめられます。
② 利益が原料価格に振られやすいのは、事業の構造によるものです。 主原料は原油からつくられる樹脂です。原料が上がってから製品価格に反映するまでの時間差が利益を削る——2019年からの5年間で実際に起きたことです。同じことは今後も起こりえます。会社もここは数字で示していて、来期予想とあわせて、参考指標として「原油価格(ドバイ)90〜100米ドル/バーレル」を開示しています(2026年3月期決算短信)。中東情勢の緊迫化で原油価格が高止まりする可能性がある、と会社自身も同じ短信で触れています。実際の原油価格がこの帯に収まっているのか——私は決算のたびに答え合わせをしていくつもりです。
③ 国内の需要は追い風とはいえません。 住宅向けの断熱材は、新設住宅着工の減少という逆風の中にあります(くわしい数字は🔍の章で)。食品トレー向けの需要減少、水産分野(魚箱などのスチロダイア)の回復の足踏みも、会社が短信で触れている逆風です。国内向けの販売は、数量が増えにくい環境が続きそうです。
支えになりそうなところ
① 17期、減配していません。 利益が大きく減った5年間も配当50円を続けた実績は、この会社の配当への向き合い方を示す、いちばん重い事実だと思います。※過去の配当実績は、将来の配当を約束するものではありません。
② 財務に厚みがあります。 自己資本比率は65.9%。本業の現金収入(2026年3月期で163.5億円)は、配当総額(23.6億円)を大きく上回ってきました。
③ 利益を戻した実績があります。 製品価格の改定と高付加価値製品への移行で、利益は谷から回復しました。引っ張ったのは、全世界で50%近い市場シェア(会社の記述)を持つARPROです。
📌 次に見ようと思っているポイント
これからの決算で、私はこんなところを見ようと思っています。予想ではなく、「どの資料の、どの数字を見るか」の話です。
① 営業利益70億円の予想が、どこに着地するか。 四半期ごとの決算短信で見られます。中期経営計画の目標(100億円)との距離が縮まるのかどうか。第2四半期の決算の進み具合が、最初の手がかりになると思います。
② 配当性向が、どこまで上がっていくか。 予想どおりに進むと、今期の配当性向はおよそ52%になる計算です(純利益予想50億円と2026年3月末の発行済株式数からの、私の試算です)。会社の目安は35%「以上」なので、上回ること自体は方針のとおりです。ただ、割合が高くなるほど、利益がさらに減ったときに配当を保つ余力は薄くなります。かつて据え置きの時代には58.9%まで達したこともありました。新しい方針のもとでこの割合がどう扱われ、会社がどう説明していくのか。決算短信の「配当の状況」欄で毎回確認できます。
③ 押出事業の営業利益率。 新築住宅・建築物への省エネ基準の義務化(2025年4月〜)のあと、最初の通期だった2026年3月期には、高付加価値品の効果でセグメント利益が25.1%増えました。2期目となる今期も、この流れが続くのかどうか、決算説明資料のセグメントページで確かめられます。もし「ここも見ると良いよ」という数字をご存じの方がいらっしゃいましたら、教えてもらえるとうれしいです。
🔍 もう少し深く ― 注力分野の需要の土台を、公的データで確かめてみた
ここは、注力3分野(自動車・住宅断熱材・ディスプレイ)の需要の土台が、世の中でどうなっているのかを、公的データで確かめた記録です。深掘りの補足なので、お急ぎの方は「おわりに」へ進んでも大丈夫です。
① 自動車(ARPROの主戦場)
国内の自動車生産台数は、経済産業省の生産動態統計でたどれます。四輪車の生産は2019年の約968万台から2020年に約807万台へ落ち込み、2025年も約841万台と、コロナ禍前の水準には戻っていません。国内だけを見ると、台数の追い風はまだ吹いていません。
ただ、ARPROの主戦場は世界です。海外の生産台数は、公的統計からは取り出せませんでした。代わりに会社の開示を見ると、北米・南米・中国・東南アジアそれぞれの販売の増減を毎年説明しており、2026年3月期は「自動車分野及び非自動車分野ともに販売は増加」とあります。台数が伸びなくても、1台に使われる部品の種類を増やす(シートの芯材など採用部位の拡大)のが会社の戦略です。ここは「世界の台数」ではなく「会社の販売数量」を、毎年の説明資料で追いかけていきたいと思っています。
② 住宅断熱材
新設住宅着工戸数は2025年度に71.1万戸、前年度比12.9%の減少でした(国土交通省・建築着工統計)。戸数だけを見ると、はっきりした逆風です。
一方で、先ほど触れた省エネ基準の義務化(2025年4月から・国土交通省)があります。家の数は減っても、1軒あたりに求められる断熱性能は上がる。会社が「一般製品から高性能製品へ需要移行が予測される」として高付加価値品に力を入れる理由は、この構図と噛み合っています。戸数は減り、1軒あたりの中身は濃くなる。どちらの力が勝つかを、押出事業の売上と利益率で確かめていくことになります。
③ ディスプレイ用の保護材
これは正直に書きます。経済産業省の統計には液晶パネル(アクティブ型液晶素子)という品目はあるものの、有機ELまで含めたFPD全体の生産や需要をまとめて示す公的統計は、探した範囲では見つかりませんでした。会社自身も「FPD市場の成長に比べて伸びが鈍化」と説明資料で触れています。ここは会社の販売数量の開示を見ていく分野です。もし公的にたどれる数字をご存じの方がいらっしゃいましたら、教えていただけたらうれしいです。
☕ おわりに
「JSP(7942)は、これからも増配を続けられそうか」。冒頭で開いたこの問いに、未来を予測して答えることはできません。
確かなのは、利益が大きく減った5年間も配当を下げなかった17年の実績と、本業の現金収入が配当を上回り続けてきたお金の流れです。気がかりなのは、今期が減益予想であることと、増配を続けた場合の配当性向が計算上52%前後まで上がっていくことです。どちらも、いまある事実です。
私のものさしは、ひとつです。「純利益の35%以上を目安に配る」という新しい方針が、2度目の、そして前回より深い減益予想の年をどう通っていくか。据え置きの時代に配当性向58.9%まで利益が細っても配当を続けた会社が、新しい方針のもとでは、この割合をどこまで許容していくのか。今期の決算は、この会社の配当への向き合い方が、いちばんよく表れる一年になると思っています。
その先どうなるかは、これからの数字が決めます。だから私は、予想はせず、四半期ごとの短信と年に一度の決算説明資料を並べながら、引き続き淡々と見ていきます。みなさんは、どう考えますか。
出典・一次ソース
- 各年の決算短信(2010年3月期〜2026年3月期・17期分):株式会社JSP。2014年3月期以降はIRBANKのミラー、2013年3月期以前は会社IRライブラリより取得
- 中期経営計画「Change for Growth 2026」(2024年4月):株式会社JSP
- 2026年3月期 決算説明資料(2026年5月13日):株式会社JSP
- 株主還元方針:株式会社JSP「株主還元(配当等)」ページ
- 「配当予想の修正(増配)及び株主還元方針の変更並びに株主優待制度一部変更に関するお知らせ」(2024年4月30日):株式会社JSP(2024年3月期決算短信内の参照より)
- 新設住宅着工戸数:国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年度計)」
- 省エネ基準適合義務化:国土交通省「建築物省エネ法」関連公表資料
- 自動車生産台数:経済産業省「生産動態統計調査」
免責
このページは、個人が公開情報をもとに作成した観察の記録です。投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は記事中に明記した時点のものであり、正確性・最新性を保証するものではありません。会社の予想・目標は会社が公表した時点のものであり、達成を保証しません。過去の配当・業績の実績は、将来の配当や業績を保証しません。試算は前提つきの参考値です。投資の判断は、ご自身の責任でお願いします。
著者:ミーナ 更新日:2026-07-12