全国保証(7164)は、これからも増配を続けられそうか
住宅ローンを借りる人の「保証人の役割」を専門に引き受けてきた、全国保証(7164)を、16期分の決算資料で見てみました。
☕ まずは30秒だけ
全国保証の純利益は、この16期でおよそ11倍になりました。途中で決算が単体から連結(子会社を含む集計)に変わっているので、参考の倍率です。その間に、1株あたりの配当は60倍になりました。利益が11倍、配当が60倍。この開きが気になって、上場前の2年分も含めてさかのぼって、16年分の開示資料を読みました。どこからこの差が生まれたのか、この記事で順番にたどっていきます。
(お忙しい方は、ここだけ読めば大筋がつかめます。気になったら下へどうぞ。)
ざっくり言うと
全国保証は、住宅ローンを借りる人の「保証人」の役割を引き受ける、信用保証の専門会社です。2012年12月の上場から14期、減配は一度もありません。それどころか、毎期の増配が続いています(株式分割の分をそろえた基準です)。そして会社は、2026年度からの5カ年計画「Go for 50」で、利益の半分を配当に回す「配当性向50%の維持」を掲げました。
利回りは?
2026年3月期の実績配当120円を、株価3,064円(2026年7月24日の東京証券取引所の終値)で割ると、約3.9%です。会社が予想する2027年3月期の配当123円で計算すると、約4.0%です。(実績の配当と会社予想の配当で計算した参考の数字です。株価で変わりますし、将来の配当・利回りを約束するものではありません。いずれも税引前の数字です。)
配当は年2回(中間と期末)、3月期決算の会社です。年2回になったのは2026年3月期からで、それまでは期末の年1回でした。なお、クオカードなどの株主優待は、2026年3月末の株主への贈呈を最後に廃止されています。
おさえどころ3つ
① 上場から14期、減配なし。
1株あたりの配当は、株式分割をいまの株数にそろえた基準で、上場した2013年3月期の10.75円から2026年3月期の120円へ、毎期増配が続いてきました。コロナ禍が始まった2020年も、会社は5月の決算発表で翌期の予想を「未定」とせず、増配の予想を出しています。実績は、その予想をさらに上回りました。配当のもとになる営業キャッシュ・フロー(本業で稼いだ現金)は、開示のある16期すべて黒字で、2026年3月期の配当総額はその約半分に収まっています。
② 稼ぎは住宅ローンの保証料。いまは、貸し倒れに備える費用(与信関連費用)が増えています。
借りる人から保証料を受け取り、返せなくなったときは金融機関へ残りを立て替える。この仕組み一本の会社です。保証料は借りるときにまとめて受け取り、保証が続く長い期間で少しずつ収益にしていくため、過去に引き受けた保証が将来の収益として先に積まれています。引き受けた保証の残高は、2026年3月末で21.4兆円まで増えました。一方で足元では、与信関連費用が前の期より35.5%増え、営業利益はこの3年で2度、前の年を下回りました。会社はこの費用を「コロナ以降の経済正常化する過程で増加した」と説明しています。保証の商売は、この費用の増減がそのまま利益に響きます。
③ 計画は「配当性向50%の維持」。ここからの増配は、利益の伸びしだいです。
2026年3月公表の5カ年計画「Go for 50」で、会社は「利益の50%は安定的に還元」と記しました。今期(2027年3月期)の会社予想は123円への増配で、予想配当性向はちょうど50.0%です。配当性向は、この16期で8.1%から49.2%まで上がってきました。会社が13年かけて「利益の半分を配る」形に自身を変えてきた結果で、配当性向は方針の50%にほぼ到達しています。ここから先の増配は、1株あたり利益の伸び(会社の計画は年平均+4.5%)に直結します。会社自身が新築住宅市場の縮小を見込み、住宅ローン金利も上がり始めたなかで、この計画どおりに利益を伸ばせるかどうかが、この先の配当の確かめどころです。
この3つを16年分の資料で順に確かめたのが、ここから下の記録です。
(この記事は、ひとりの観察者ミーナの記録です。売買をすすめるものではありません。数字は会社の公表資料に基づきますが、正確性は保証しません。投資の判断はご自身で。)
🏢 全国保証ってどんな会社?
家を買ったとき、住宅ローンの見積もりに「保証料」という項目があって、まとまった金額に少し驚いた——そんな記憶のある方も多いと思います。連帯保証人を頼む代わりに、保証会社にお金を払う。あの保証を担当してくれているのが、全国保証です。
ひとことで言うと、住宅ローンの「保証人の役割」を専門にする信用保証会社です。借りる人から保証料を受け取り、万が一その人が返せなくなったら、金融機関へ残りを立て替えて支払います(代位弁済といいます)。立て替えた分は、そのあと担保の売却なども含めて、時間をかけて回収していきます。それでも回収しきれない分に備えて、費用をあらかじめ積んでおく。これが、この記事で何度も出てくる与信関連費用です。この仕組み一本で商売をしてきた会社です。
成り立ちをたどると、1981年の設立で、はじめは厚生年金の転貸住宅融資の保証から。1997年に民間金融機関の住宅ローン保証を始め、2012年12月に東証一部(いまのプライム市場)へ上場しました。特徴は、特定の銀行の系列ではないことです。銀行・信用金庫・信用組合・JAなど、全国の金融機関と提携して保証を引き受けます。事業は「信用保証事業」の単一セグメントです。
お金の流れにも特徴があります。保証料は、多くの場合、借りるときにまとめて受け取ります。会計のうえでは、それを保証が続く長い期間にわたって少しずつ収益にしていく決まりです(貸借対照表には「長期前受収益」として積まれています)。つまり、過去に引き受けた保証が、将来の収益として先に積まれています。引き受けた保証の残高(保証債務残高)は2026年3月末で21.4兆円。従業員は連結378名です。さきほどの与信関連費用を低く保つ審査と回収の実務も、この人数で日々担っています。これらが数字にどう表れるのか、次の章で見ていきましょう。
📊 数字でみる ― 純利益11倍、配当は60倍
まず全体の形から。16期で純利益は28.8億円から325.3億円へ、11.3倍になりました。売上にあたる営業収益は217.7億円から587.4億円で2.7倍。そして1株あたりの配当は、3回の株式分割を経て、いまの株数にそろえた基準で、2円から120円へ、60倍です。
収益より利益が速く伸び、利益より配当がさらに速く伸びた。後者のカラクリが、配当性向(利益のうち配当に回す割合)の引き上げです。8.1%から49.2%へ。割合そのものが、16期で6倍になった計算です。
もうひとつ、営業収益に対する営業利益の割合は、2026年3月期でおよそ7割あります(営業収益587.4億円に対して、営業利益413.8億円。計算値)。仕入れの原価がない商売である一方、費用の最大の変動要因は、貸し倒れに備える与信関連費用です。この高い割合が保たれるかどうかも、この費用しだいです。ここは後の章で戻ってきます。
(各年3月期。棒=1株配当〔右の目盛り・円〕、線=純利益〔左の目盛り・億円〕。どちらもゼロ起点です。1株配当は株式分割(2012年9月・2014年3月・2025年4月)をいまの株数にそろえた基準です。2011〜2013年3月期の数字は第33期有価証券報告書などで補い、2023年3月期からは連結決算です。出典:各年 決算短信・第33期有価証券報告書)
表A 純利益・配当・配当性向・自己資本比率(16期)
| 期 | 純利益(億円) | 1株配当(円・調整後) | 配当性向 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|
| 2011/3 | 28.8 | 2.00 | 8.1% | 15.9% |
| 2012/3 | 20.4 | 2.00 | 11.5% | 16.1% |
| 2013/3 | 68.1 | 10.75 | 17.8% | 22.3% |
| 2014/3 | 93.8 | 15.0 | 22.0% | 24.1% |
| 2015/3 | 151.1 | 24.0 | 21.8% | 28.3% |
| 2016/3 | 172.0 | 27.5 | 22.0% | 31.4% |
| 2017/3 | 195.3 | 31.0 | 21.8% | 34.2% |
| 2018/3 | 220.5 | 40.0 | 24.9% | 36.7% |
| 2019/3 | 241.3 | 43.5 | 24.8% | 39.5% |
| 2020/3 | 244.3 | 47.5 | 26.7% | 38.9% |
| 2021/3 | 270.0 | 58.5 | 29.8% | 41.8% |
| 2022/3 | 278.4 | 66.5 | 32.8% | 44.4% |
| 2023/3 | 285.8 | 74.0 | 35.6% | 46.4% |
| 2024/3 | 288.0 | 85.0 | 40.6% | 48.2% |
| 2025/3 | 320.9 | 106.0 | 44.8% | 48.5% |
| 2026/3 | 325.3 | 120.0 | 49.2% | 48.9% |
- 数字は各年の決算短信より。2011・2012年3月期は上場前のため第33期有価証券報告書、2013年3月期は同有報と2014年3月期短信の前期欄で補いました。純利益は百万円開示を四捨五入で億円にしています
- 2023年3月期から連結決算です(純利益は「親会社株主に帰属する当期純利益」)。2022年3月期以前は単体で、両者は単純につながりません
- 1株配当は、株式分割(2012年9月・1株→100株、2014年3月・1株→2株、2025年4月・1株→2株)をいまの株数にそろえた換算値です。実際に支払われた額面は年により異なります(例:2011年3月期は800円、2025年3月期は212円)
- 配当性向=利益のうち配当に回す割合。会社開示の値です
表Aを縦に読むと、配当性向が階段のように上がっていくのが見えます。22%前後で足踏みした4年(2014〜2017年)、24〜26%台、30%、40%、そして49.2%。表の上のほう、2012年3月期には、純利益が28.8億円から20.4億円へ減った年も見えます(この年の配当は、調整後2円のまま据え置きでした)。利益の成長に、配当性向の引き上げが重なって、配当の60倍ができています。この引き上げを会社がどんな言葉で説明してきたのかは、後の章でたどりますね。
配当の原資になるキャッシュ・フロー(現金の出入り)も確かめたいので、表をもうひとつ用意しました。
表B キャッシュ・フローと配当の支え(開示のある16期)
| 期 | 営業CF(億円) | 投資CF(億円) | 現金残高(億円) | 配当総額(億円) |
|---|---|---|---|---|
| 2011/3 | 145.4 | △78.3 | 146.2 | ― |
| 2012/3 | 128.8 | △178.1 | 94.6 | ― |
| 2013/3 | 181.1 | △218.0 | 135.4 | 14.8 |
| 2014/3 | 228.5 | △102.6 | 246.4 | 20.7 |
| 2015/3 | 228.0 | △298.7 | 152.4 | 33.1 |
| 2016/3 | 260.8 | 23.2 | 403.4 | 37.9 |
| 2017/3 | 329.7 | 68.8 | 764.0 | 42.7 |
| 2018/3 | 349.1 | △291.8 | 778.7 | 55.1 |
| 2019/3 | 328.1 | △341.8 | 709.9 | 59.9 |
| 2020/3 | 297.8 | 27.1 | 1,267.5 | 65.4 |
| 2021/3 | 302.1 | △143.2 | 1,361.0 | 80.6 |
| 2022/3 | 292.8 | △379.6 | 1,189.2 | 91.6 |
| 2023/3 | 287.0 | △360.4 | 1,126.6 | 101.9 |
| 2024/3 | 313.0 | △560.0 | 776.5 | 117.1 |
| 2025/3 | 334.2 | 6.3 | 923.8 | 143.4 |
| 2026/3 | 328.3 | △423.6 | 555.2 | 159.8 |
- 各年の決算短信より(2011・2012年3月期は第33期有価証券報告書、2013年3月期の配当総額は2014年3月期短信の前期欄)。△はマイナス(支出)で、プラスの値に記号は付けていません。四捨五入で億円にしています
- キャッシュ・フロー計算書の作成は2011年3月期からで、それ以前の開示はありません。2011・2012年3月期の配当総額(―)は開示資料から取得できませんでした
- 営業CF=本業で稼いだ現金。投資CF=この会社の場合、受け取った保証料を有価証券などの運用に回す動きが大きく表れます(マイナス自体が悪い数字ではありません)
- 2020年3月期の現金の増加には、長期借入などの調達(財務CFプラス232.6億円)を含みます
- 2026年3月期は投資有価証券の取得に480.7億円を使い、現金残高が大きく減りました
営業CFが赤字の年は、16期の中にひとつもありません。配当総額は増えた今でも159.8億円で、営業CF328.3億円の約半分。その期の利益から決めた配当が、本業で稼いだ現金の半分ほどに収まる計算です。ただし2026年3月期は、現金残高が924億円から555億円へ大きく減りました。減った分は主に有価証券への投資に回っています。お金が消えたのではなく、置き場所が現金から運用資産へ移った年でした。
📖 減配なしの歩みを、会社の言葉でたどる
ここからは、各年の決算短信で会社自身がどう説明してきたかを、時系列でたどっていきましょう。
2013年〜2014年:上場が、営業の武器になった
2012年12月、全国保証は東証一部に上場します。翌年度の短信で、「上場による信用力向上等のメリットを最大限に活用して地方銀行を中心に営業活動を展開した結果」と記しています。新たな契約は、この1年だけで15の金融機関にのぼりました。保証会社の商売は、金融機関に選ばれてはじめて成り立ちます。上場で手に入れたのは、資金だけでなく、金融機関に選ばれるための信用でした。2014年4月からは、住宅ローン利用者向けのカードローン保証も始めています。
2015年:利益が6割増えた年の中身
2015年3月期、純利益は93.8億円から151.1億円へ、61%増えました。一方で、営業収益の伸びは9.1%。この差はどこから来たのか。答えは、決算書の費用の欄にあります。前の年に42.4億円あった貸倒引当金繰入額が、この年は費用ではなくなり、逆に4.9億円が利益側に戻りました(積んでいた備えの一部が、不要になったためです)。債務保証損失引当金繰入額も41.1億円から28.5億円へ減りました。貸し倒れに備える費用が軽くなった分が、そのまま利益に乗った形です。利益がこの費用しだいで大きく動くことを示した年になりました。
2016年〜2019年:「なくてはならない保証会社」へ
この4年は、毎年の短信に「それぞれ過去最高の数値を更新」が並びます。2016年の短信には「保証債務残高10兆円を擁する信用保証会社としての責任を自覚し、"なくてはならない保証会社"としての地位を不動のものとすべく」とあります。2018年・2019年には「住宅ローン保証事業におけるトップ地位を目指してまいります」に変わりました。新設住宅着工が前年を下回った2018年3月期も、増収増益でした。配当は調整後27.5円から43.5円へ。期初の予想では据え置きとした年もありますが(2017年3月期・予想55円)、実績は62円への増配になりました。55円・62円は当時の額面で、表Aのいまの株数に直すと27.5円と31円です。
2020年〜2021年:コロナ禍。「未定」とは言わなかった
2020年、コロナ禍が始まります。全国保証は2020年5月の短信で、先行きを「予断を許さない状況」としながらも、翌期の通期予想を「未定」とせずに提示しました。配当も95円から111円へ、増配の予想です(予想配当性向30.0%)。結果は増収増益で、配当は予想を上回る117円。いずれも当時の額面で、表Aのいまの株数に直すと、47.5円→55.5円の予想に対して実績58.5円です。代位弁済(立て替え払い)も、2021年3月期の104億円に対して翌2022年3月期は93億円と、むしろ減りました(決算短信補足資料)。この2年は、商売が崩れなかったことと、会社が先に増配を示したことが、いちばんよく見えた2年だったと受け取っています。
2022年〜2023年:伸びが小幅だった年と、グループ経営に変わった年
2022年3月期は、純利益の伸びが+3.1%と小幅にとどまった年です。それでも配当は、調整後58.5円から66.5円へ増えました。そして2018年の債権回収会社(サービサー)を皮切りに、地方の保証会社の子会社化が続き、2023年3月期から連結決算に移ります。表Aの2022年と2023年が単純につながらないのはこのためです。短信の主語も「当社」から「当社グループ」に変わりました。
2024年〜2026年:残高は積み上がる。ただし営業利益は足踏み
新設住宅着工戸数が減り続けるなかでも、保証債務残高は17.6兆円→19.4兆円→21.4兆円と増えました。会社の説明は2つです。ひとつは「住宅価格上昇の影響などによる借入金額の増加もあり、底堅い動き」という住宅ローン市場の見方。件数ではなく1件あたりの金額が市場を支えている、という説明です。もうひとつは、他社の保証債務やRMBS(住宅ローン担保証券)の取得といった、会社が「インオーガニック成長」(自社の営業だけでなく、買収や資産の取得によって外から積み増す成長のことです)と呼ぶ積み増しです。
一方でこの3年、営業利益は2024年3月期(△2.0%)と2026年3月期(△1.4%)に前年割れしました。2024年3月期は、貸し倒れに備える債務保証損失引当金繰入額が28.6億円から39.6億円へ増えた年です。2026年3月期は、与信関連費用が55.5億円と前期より35.5%増えました。会社は「与信関連費用は、コロナ以降の経済正常化する過程で増加した」と説明しています。2015年に利益を押し上げたのと同じ費用が、今度は利益を減らす側に回っています。なお、あいだの2025年3月期は純利益が+11.4%と大きく伸びていますが、ここには子会社化に伴う負ののれん発生益12.6億円が特別利益として乗っています。
冒頭の疑問(利益11倍で配当60倍)の答え合わせです。1株あたり利益がこの16期で9.9倍になり(会社全体の純利益は11.3倍。上場で株数が増えた分、1株では少し薄まっています)、配当性向が8.1%から49.2%へ6倍になりました。配当の60倍(2円→120円)は、この2つの掛け算でできています(9.9×6≒60)。上場前、配当に回していたのは利益の1割前後でした。残りは、保証という商品の元手になる自己資本に積んでいます(2011年3月期の自己資本比率は15.9%でした)。上場後しばらくの短信には、「強固な財務基盤の構築に必要な内部留保を確保しつつ」という配当方針が毎年置かれ、いまも会社の株主還元ページに同じ言葉が残っています。財務の土台を固めながら、13年かけて「利益の半分を配る会社」に変わってきました。そして次の5年の計画で、会社は「配当性向50%の維持」を掲げました。
🧭 会社が掲げる目標「Go for 50」
次は、会社が示している計画を見てみましょう。この章に出てくる目標や計画はすべて会社が公表しているもので、達成が約束されたものではありません。出典は新中期経営計画「Go for 50 保証の力で未来をひらく」(2026年3月公表)と2026年3月期の決算説明会資料です。
会社は2026年3月、2026年度から2030年度までの5カ年計画「Go for 50」を公表しました。名前の由来は「新中期経営計画の最終年度である2031年2月に50周年を迎える」こと。配当性向の50%ではなく、創業からの節目の数字です。ビジョンは「住宅ローン保証を中核とした住生活・金融分野の総合グループ形成」。数字の目標を見る前にひとつ。起点となる2026年3月期の数字は、計画公表時の予想値です。そのうえで、保証債務残高21.3兆円→27.3兆円、1株あたり利益(EPS)238.6円→298.0円、ROEの目標は12〜15%とされています。
株主還元については、「利益の50%は安定的に還元(配当性向50%)」「中期経営計画では配当性向50%を維持」と記しています。5年間で生む利益を約1,800億円と見込み、うち約900億円を配当に。このほかに、活用可能な資本を約500億円と見込み、住生活関連分野への成長投資に充て、「未使用時は機動的な自社株買いで対応」という設計です。配当と活用可能資本を除いた残りは、増える保証債務残高に必要な資本の積み増しに回ります(計画では約2,320億円→約3,000億円)。実際、自社株買いは2024年・2025年に約70億円ずつ実施されています。
還元の形も、この間に組み替えられています。2024年11月5日、会社は株式分割(2025年4月・1株→2株)と、それに伴う定款変更、株主優待制度の廃止をひとつのお知らせで発表しました。200株を1年以上持つと5,000円相当のクオカードなどが届いた優待は、2026年3月末の株主への贈呈が最後です。かわりに2026年3月期からは、中間配当を初めて導入しました。モノでの還元をやめて配当に集め、分割で1株を買いやすくし、受け取りは年2回に増やしました。株主への渡し方を、配当中心に整えました。
この計画書には、前の中期経営計画(2023〜2025年度)の結果も数字つきで載っています(数字は計画公表時・2026年3月16日の見込みベース)。保証債務残高は計画を上回った一方、営業利益は「与信関連費用、その他費用が上振れ」て計画に8.7%届きませんでした。この計画書には、届かなかった数字もそのまま開示されています。配当性向は「計画通り段階的に配当性向引き上げ」。確定した実績は49.2%です。利益は計画を下回っても、配当性向の引き上げはほぼ計画どおりに進めました。会社がどちらを先にしたかが分かるので、配当を見ている人には意味のある事実だと、私は思います。
今期(2027年3月期)の会社予想は、営業収益・利益とも増える計画で、配当は123円(中間50円+期末73円)、予想配当性向50.0%です。ひとつ補足します。2026年3月期の経常増益(+4.6%)には、資本業務提携先を持分法で取り込んだことに伴う一時的な利益11.9億円が含まれていました。会社の説明では「負ののれん発生益相当の持分法利益」です。この「今年だけの特別な利益」が、今期はなくなります。それでもなお増益を見込む、というのが会社の計画です(決算説明資料の言葉では「剥落するものの、増益を予想」)。
⚖️ 気をつけたいところと、支えになりそうなところ
ここからは、リスクや弱みと、支えになりそうなところを並べてみます。
気をつけたいところ
① 会社自身が、新築住宅市場の縮小を明言しています。
短信の見通し欄には「長期的には少子高齢化に伴う人口・世帯数の減少により新築住宅市場の縮小が見込まれます」と、2023年から3年続けて書かれています。住宅ローン保証という商売の入り口である新築市場が、長期では縮んでいく前提です。会社は中古住宅やM&A、住生活分野へ広げることで、この縮小を補おうとしていますが、広げた先で同じ収益性を保てるかどうかは、これからの数字で確かめるしかありません。なお、直近の2026年3月期短信の見通し欄にこの文はなく、新しい中期経営計画の説明に置き換わっています。
② 住宅ローン金利の上昇が、需要に影響し始めています。
日本銀行の政策金利は、2025年12月に0.75%程度へ、2026年6月16日には1.0%程度へ引き上げられました(6月17日から適用)。会社も2025年3月期の短信で、「住宅ローン金利の引き上げが消費者の購入意欲の低下につながり」と、家を買う人の意欲への影響を認めています。一方で返済の側については、補足資料に「住宅ローン金利上昇による代位弁済率への影響は見られていない」とあります。需要には効き始め、貸し倒れにはまだ表れていない。これが2026年3月期時点の会社の整理です。この先は分かりませんから、需要と代位弁済の両方を見ていく必要があると思っています。
③ 利益を削る側の費用(与信関連費用)が増えています。
直近の増え方は、歩みの章でみたとおりです。前の中期経営計画で営業利益が未達だった主因にも、この費用が挙げられました。おおもとの代位弁済(実際に立て替えた金額)を補足資料で確かめます。2021年3月期から順に、104→93→107→122→144→165億円(2023年3月期からは子会社分を含みます)。保証債務残高に対する割合(代位弁済率)は0.07〜0.09%にとどまりますが、金額は3年連続で増え、会社の今期計画も170億円と、さらに増える前提です。立て替えたあとは、担保物件の売却などで回収が進みます(担保処分による回収率は70〜77%の水準)。それでも回収しきれない分に備えるのが与信関連費用です。景気が冷えて住宅ローンを返せない人が増えれば、この費用が膨らみ、利益と配当の原資を直接圧迫します。
④ 増配を支えてきた配当性向の引き上げは、方針の50%まであとわずかです。
会社の方針は、配当性向50%の維持です。実績はすでに49.2%に達していて、50%まで、残りは0.8ポイントです。ここから先の増配は、利益(EPS)の伸びに直結します。会社の計画はEPS年平均+4.5%で、過去の増配率より控えめです。なお、DOE(株主資本配当率)や配当の下限のような「利益が減った年の下支えの約束」は、開示のなかに見つけられませんでした。利益が減れば、配当性向50%のもとでは配当も減りうる計算になります。
支えになりそうなところ
① 上場から14期、減配していません。
そろえた基準では毎期増配で、コロナ禍の年も予想を上回る配当でした。※過去の配当実績は、将来の配当を約束するものではありません。
② 本業の現金収入が安定しています。
営業CFは開示のある16期すべて黒字。2026年3月期の配当総額は営業CFの約半分でした。保証料を先に受け取る商売のため、過去に引き受けた保証が「長期前受収益」として積まれ、将来の収益の土台になる仕組みです。
③ 保証債務残高は積み上がり続けています。
2016年に10兆円、2025年12月に20兆円(会社発表・住宅ローン担保証券等の対象債権額を含む)。新築の件数が減るなかでも、1件あたりの金額が上がり、既存市場も取り込んで、残高は増え続けてきました。
📌 次に見ようと思っているポイント
これからの決算で、私はこんなところを見ようと思っています。予想ではなく、「どの資料の、どの数字を見るか」の話です。
① 配当性向50%が、毎期の短信でどう書かれていくか。
決算短信の「配当の状況」欄で毎回確認できます。とくに、利益が伸びなかった期に50%をどう扱うのか。据え置きのために配当性向を一時的に超えるのか、配当性向どおりに配当も止まるのか。配当性向50%の方針が本当に守られるかどうかは、順調な年ではなく、そういう年に分かると思います。
② 与信関連費用と保証債務残高の、伸びの比較。
どちらも決算説明会資料・補足資料で開示されます。保証債務残高は年平均+5.0%の計画。対して与信関連費用は直近+35.5%で増えました。この2つの速さの差がどうなっていくかが、営業利益の足踏みが続くかどうかの分かれ目に見えています。あわせて、補足資料の「住宅ローン金利上昇による代位弁済率への影響」の説明が今後どう変わるかも、同じページで確かめられます。
③ EPSと、資本の使い方。
中期経営計画の主指標はEPS(年平均+4.5%)です。純利益の伸びに加えて、使われなかった資本を自社株買いに回すという方針(🧭の章でみたもの)が実際にどう出るか。株主還元ページと適時開示で追いかけます。
もし「ここも見ると良いよ」という数字をご存じの方がいらっしゃいましたら、教えてもらえるとうれしいです。
🔍 もう少し深く ― 住宅ローンの母数は、どうなっているのか
ここは、全国保証の商売の土台である住宅ローン市場が、世の中でどうなっているのかを確かめるための章です。深掘りの補足なので、お急ぎの方は「おわりに」へ進んでも大丈夫です。
歩みの章でみた保証債務残高の伸びを、こんどは世の中側から確かめます。新規の保証実行について会社は、「新設住宅着工戸数が低調な中、保証単価上昇が寄与し新規保証実行金額が増加した」と説明しています。家の値段が上がり、1件あたりの借入額が増えたことが、件数の減少を金額で補っている、というのが会社の見立てでした。これを公的統計と並べてみます。
新築は、減っています。 2025年度の新設住宅着工戸数は71.1万戸で、前年度より12.9%減りました(国土交通省・建築着工統計)。10年前の2016年度は97.4万戸でしたから、約73%の水準です。新築が減ると、新しい保証の件数も減りやすくなります。会社はこれを、1件あたりの金額の上昇で補ってきたと説明しています(歩みの章でみたとおりです)。
住宅ローンの残高は、増え続けています。 個人向け住宅ローンの貸出残高は、2014年度末の181.8兆円から2024年度末の227.2兆円まで、毎年度増えてきました(住宅金融支援機構の集計。2025年度末の値は執筆時点で未公表で、例年8月ごろに更新されます)。2024年度の新規貸出も21.9兆円と、前年度比5.1%の増加です。保証の対象になる住宅ローンそのものは、まだ増え続けているということです。
中古の取引は、増えています。 国土交通省の既存住宅販売量指数(2010年=100)は、2015年の102.1から2025年は129.5へ上がりました。中古の取引を「戸数」で毎年数えた公的統計はなく(もとになる総務省の調査が5年ごとのためです)、ここでは指数で見ています。月次の値を年平均にした、おおまかな計算値です。会社が中古住宅の分野へ広げようとしているのは、この動きに乗る形です。
金利は、上がり始めています。 現在の政策金利は1.0%程度(2026年6月16日の日本銀行の決定)。需要と代位弁済それぞれへの会社の見方は、⚖️の章に書いたとおりです。
新築は減り、ローン残高という母数は増え、中古の取引も増えている。並べると、こういう構図です。着工の減少がこの先どう効いてくるかを、この並びだけで決めつけることはできません。ただ、「新築の件数が減っても残高は増える」という会社の数字が、母数の側の動きと方向としてかみ合っていることは確かめられました。なお、住宅ローン保証の市場全体に占める全国保証のシェアは、銀行系列の保証会社の数字が個別に開示されないため、公開資料からは計算できません。
☕ おわりに
「全国保証(7164)は、これからも増配を続けられそうか」。冒頭で開いたこの問いに、未来を予測して答えることはできません。
確かなのは、上場から14期、そろえた基準で毎期配当を増やしてきた実績と、配当総額を営業CFの半分ほどに収めてきたお金の流れです。そこに「配当性向50%を維持」と明記した5カ年計画が加わりました。気がかりなのは、会社自身が新築市場の縮小を明言していること、与信関連費用が増えて営業利益が足踏みしていること、そして金利が上がる局面に入ったことです。増配を支えてきた配当性向の引き上げも、会社の方針である50%にほぼ届いています。いずれも、いまある事実です。
私が見ていくものさしは、利益の伸びです。配当性向が方針の50%にほぼ届いたいま、この先の配当は利益の伸びで決まります。EPS年平均+4.5%という会社の計画が、費用の増加と市場の縮小のなかで実際の数字になっていくのか。「Go for 50」の初年度である今期の決算は、その最初の答え合わせになると思っています。
その先は、これからの数字で確かめていくしかありません。予想はしません。四半期ごとの短信と、年に一度の決算説明会資料を、これからも淡々と読んでいきます。
みなさんは、どう考えますか。
出典・一次ソース
- 各年の決算短信(2014年3月期〜2026年3月期・13期分):全国保証株式会社。2014〜2016年3月期はIRBANKのミラー、2017年3月期以降は会社IRライブラリより取得
- 第33期 有価証券報告書(2013年6月25日提出):全国保証株式会社(2011〜2013年3月期の数値の補完に使用)
- 新中期経営計画「Go for 50 保証の力で未来をひらく」(2026年3月16日):全国保証株式会社
- 2026年3月期 決算説明会資料(2026年5月22日)・決算短信補足資料:全国保証株式会社(代位弁済金額・代位弁済率・担保処分回収率・今期計画は補足資料より)
- 2026年3月期通期連結業績予想の修正及び期末配当予想の修正(増配)に関するお知らせ(2026年3月16日)・剰余金の配当に関するお知らせ(2026年5月18日):全国保証株式会社
- 株式分割及び株式分割に伴う定款の一部変更、株主優待制度の廃止に関するお知らせ(2024年11月5日):全国保証株式会社
- 株主還元・株主優待・会社概要・会社沿革・中期経営計画 各ページ(2026年7月12日閲覧):全国保証株式会社 ウェブサイト
- 建築着工統計調査報告(令和7年度計・2026年4月30日公表):国土交通省(新設住宅着工戸数)
- 業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移(2025年8月15日公表・2026年7月12日取得):住宅金融支援機構(個人向け住宅ローンの残高・新規貸出額)
- 既存住宅販売量指数(2026年6月30日公表分まで・2026年7月12日取得):国土交通省(年平均は月次季節調整値からの計算値)
- 金融市場調節方針の変更について(2025年12月19日・2026年6月16日):日本銀行
免責
このページは、個人が公開情報をもとに作成した観察の記録です。投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は記事中に明記した時点のものであり、正確性・最新性を保証するものではありません。会社の予想・目標は会社が公表した時点のものであり、達成を保証しません。過去の配当・業績の実績は、将来の配当や業績を保証しません。試算は前提つきの参考値です。投資の判断は、ご自身の責任でお願いします。
著者:ミーナ 更新日:2026年7月26日