アイカ工業(4206)は、これからも増配を続けられそうか
学校の机やキッチンの扉の「表面」を作ってきたアイカ工業(4206)を、17期分の決算資料で見てみました。
☕ まずは30秒だけ
アイカ工業(4206)は、メラミン化粧板という建材と、接着剤などの化学品を作っている会社です。2026年8月4日、2027年3月期の年間配当の予想を140円から144円へ引き上げると発表しました。この増配は続きそうか——17期分の決算資料を読みました。
(お忙しい方は、太字の見出しだけ拾えば30秒で大筋がつかめます。気になったら下へどうぞ。)
ざっくり言うと
アイカ工業は、名古屋発の化学メーカーです。会社は統合報告書で、主力のメラミン化粧板を「国内シェアNo.1」と記しています。私は2010年3月期からの17期分の短信を確認しましたが、年間配当は17期すべてで前の年を上回っていました。会社自身も決算説明会の資料に「17期連続増配、28期連続減配なし」と記しています。そして2023年に始まった中期経営計画では、「減配をしない累進配当」を基本方針として明文化しました。
利回りは?
2026年3月期の実績配当138円を、株価4,077円(2026年8月21日の東京証券取引所の終値)で割ると、約3.3%です。会社が予想する2027年3月期の配当144円で計算すると、約3.5%です。(実績の配当と会社予想の配当で計算した参考の数字です。株価で変わりますし、将来の配当・利回りを約束するものではありません。いずれも税引前の数字です。)
配当は年2回(中間と期末)。3月期決算の会社です。
おさえどころ3つ
① 配当は30円から138円へ、17期連続の増配です。
この17期には、純利益が前の年より減った年が4回ありました。それでも年間の配当は、一度も途切れず増えてきました。増配を支えたのは、44.5億円から185.3億円へ育った利益そのものです。配当に回す割合(配当性向)は、この17期の入口が43.3%・出口が46.5%と、ほぼ同じ水準に戻ってきています(くわしい歩みは数字の章で)。
② 稼ぎ場は2つ。売上を伸ばしたのは海外、利益をいちばん稼ぐのは国内の建材です。
事業は化成品(接着剤などの化学品)と建装建材(メラミン化粧板などの建材)の2つです。化成品は海外M&Aを重ねて売上のおよそ7割が海外になりました。ただ、会社全体の海外売上比率は45.8%で、目標の50%以上には届いていません。一方、セグメント利益をいちばん稼ぐのは建装建材です。直近の第1四半期は増収増益(売上19.4%増・営業利益44.9%増)で、会社は通期予想を上方修正し、配当予想も144円へ増額しました。この四半期から、インドのメラミン化粧板メーカー、スタイラム社が連結に加わっています。
③ 会社の計画は売上2,800億円・海外比率50%以上へ。還元は累進配当です。
中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」は、名前に売上高3,000億円・経常利益300億円の目標を掲げて始まりました。その後、会社は2026年に目標を売上高2,800億円・経常利益320億円へ見直しています(最終年度は2027年3月期)。経常利益は見直し前の300億円を1年前倒しで上回った一方、海外売上比率は目標の50%以上に対して45.8%と、計画が始まってから下がってきました。還元方針は「減配をしない累進配当の継続」と「機動的な自己株式取得」。この中期経営計画に、配当性向の数値目標は書かれていません。
この3つの先を確かめるポイントは、記事のいちばん最後にまとめました。累進配当の言葉の続き方、海外とスタイラム社の伸び、そして営業キャッシュ・フローと配当総額の差額の3つです。まずは、この会社がどんな事業で稼いでいるのかから、順番に書いていきますね。
(この記事は、ひとりの観察者ミーナの記録です。売買をすすめるものではありません。数字は会社の公表資料に基づきますが、正確性は保証しません。投資の判断はご自身で。)
🏢 アイカ工業ってどんな会社?
学校の机の天板、キッチンや洗面台の扉、駅やお店のカウンター。あのつるっとして硬い表面に、じつは同じ素材が使われていることが多いのをご存じでしょうか。紙に樹脂をしみこませて高温高圧で固めた「メラミン化粧板」という建材です。傷や熱に強いので、人がたくさん触れる場所の表面材として使われてきました。その国内最大手が、アイカ工業です(シェアの記載は会社の統合報告書によります)。
ひとことで言うと、「表面を作る」と「くっつける」の化学メーカーです。1936年、愛知時計電機から接着剤や航空機部品などの事業を引き継いで、愛知化学工業として名古屋で生まれました(1966年にいまのアイカ工業へ社名を変えています)。1949年に名古屋証券取引所へ、1962年に東京証券取引所へ上場し、いまはプライム市場です。連結の従業員は5,314名。2026年10月に、創立90周年を迎えます。
事業は2つの区分で開示されています。ひとつは「化成品」。創業のときから続く接着剤を中心に、塗り壁材の「ジョリパット」や化粧品原料の「ガンツパール」など、樹脂の化学品が並びます(会社は統合報告書で「業界で高いブランド力を有する高シェア商品」と紹介しています)。もうひとつが「建装建材」。メラミン化粧板をはじめ、壁や天井に使う不燃建材、カウンターなどの建材です。2026年3月期の売上は、化成品が1,362.6億円、建装建材が1,155.0億円でした。
この2つは、売り先がずいぶん違います。化成品は売上の70.6%が海外です。2012年3月期に連結へ加わったインドの現地法人にはじまり、2012年12月にはフィンランドの接着剤メーカーのアジア太平洋部門を買収。2018年に台湾・タイ、2020年にはアジアの4社と、海外の会社を仲間に加えながら大きくなってきました。一方の建装建材は海外比率16.5%で、国内の住宅や店舗、オフィスの内装が主戦場です。セグメント利益をいちばん稼ぐのはこの建装建材(2026年3月期で248.0億円)で、2026年にはインドのスタイラム社を迎えて、海外の売り先も持ち始めました。
「表面」と「くっつける」の商売が、17期の配当をどう支えてきたのか。数字から見ていきましょう。
📊 数字でみる ― 配当は30円から138円へ
まず、全体の形から見ていきましょう。この17期で、売上は809.8億円から2,517.6億円になりました。純利益は44.5億円から185.3億円です。そして1株あたりの配当は、30円から138円へ増えてきました。
この増配の主役は、利益の成長そのものです。配当に回す割合(配当性向)は、この17期の入口が43.3%、出口が46.5%と、ほぼ同じ水準に戻ってきています。入口の43.3%は金融危機のあとで利益が薄かったために高めに出た値で、途中は27.6%から69.3%まで動いています。つまり、配当が増えた分だけ、分ける元の利益が増えていたことになります。株数も見ておくと、期中平均の株式数は自社株買いなどでこの17期に約3%減りました。1株あたりの取り分を、少しだけ濃くする方向に働いています。ただし途中には、配当への考え方が一段変わった年もありました。それがどの年だったのかは、歩みの章でたどりますね。
(各年3月期。棒=1株配当〔右の目盛り・円〕、線=純利益〔左の目盛り・億円〕。どちらもゼロ起点です。純利益が前の年より減った4回とも、配当は増えています。2012年3月期の34円には記念配当2円、2017年3月期の85円には創立80周年の記念配当32円が含まれます。出典:各年 決算短信)
表A 純利益・配当・配当性向・自己資本比率(17期)
| 期 | 純利益(億円) | 1株配当(円) | 配当性向 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|
| 2010/3 | 44.5 | 30 | 43.3% | 76.2% |
| 2011/3 | 54.2 | 32 | 38.5% | 75.5% |
| 2012/3 | 59.9 | 34 | 37.1% | 73.2% |
| 2013/3 | 76.3 | 36 | 30.8% | 68.6% |
| 2014/3 | 82.2 | 38 | 30.2% | 69.2% |
| 2015/3 | 101.4 | 43 | 27.6% | 70.2% |
| 2016/3 | 99.6 | 46 | 30.1% | 70.4% |
| 2017/3 | 110.6 | 85 | 50.2% | 69.8% |
| 2018/3 | 120.0 | 92 | 50.1% | 64.4% |
| 2019/3 | 133.2 | 103 | 50.5% | 66.2% |
| 2020/3 | 127.3 | 106 | 54.4% | 63.9% |
| 2021/3 | 107.6 | 107 | 64.9% | 65.0% |
| 2022/3 | 131.2 | 108 | 53.8% | 60.4% |
| 2023/3 | 100.6 | 109 | 69.3% | 58.1% |
| 2024/3 | 151.4 | 112 | 47.3% | 58.9% |
| 2025/3 | 169.0 | 126 | 47.3% | 60.2% |
| 2026/3 | 185.3 | 138 | 46.5% | 58.4% |
- 数字は各年の決算短信より。純利益は「親会社株主に帰属する当期純利益」(2016年3月期からこの名称です)。百万円開示を四捨五入で億円にしています
- 2012年3月期の34円には記念配当2円が含まれます(記念配当を除いた普通配当は32円で、前の年と同額です)。2017年3月期の85円には創立80周年の記念配当32円が含まれます(普通配当53円は、前の年の46円から増配です)
- 配当性向=利益のうち配当に回す割合。会社開示の値です
- この17期に株式の分割・併合はないため、1株配当はそのまま比べられます
表Aを縦に読んでみます。純利益が前の年より減った年は4回あります(2016・2020・2021・2023年3月期)。いちばん深かったのは2023年3月期で、減損損失を計上して23.3%の減益でした。それでも配当の列は、4回とも増えています。そのぶん配当性向が上がり(2021年3月期64.9%・2023年3月期69.3%)、利益が戻ると40%台に下りてくる。谷の年には配当性向が上がって配当を守り、ふだんは利益の伸びが増配を作る、という形がくり返されてきました。もうひとつ、配当性向の列には段差があります。2013〜2016年3月期は30%前後、2017年3月期からは50%前後。この段差の意味は、歩みの章で会社の言葉と一緒に見ていきます。自己資本比率は76.2%から58.4%へ下がってきました。借入や社債も使って海外へ投資してきた結果で、⚖️の章で両面から見ます。
その配当を支えるキャッシュ・フロー(現金の出入り)も確かめたいので、表をもうひとつ用意しました。細かい表なので、急ぐ方は営業CFと配当総額の2列だけでも大丈夫です。
表B キャッシュ・フローと配当の支え(17期)
| 期 | 営業CF(億円) | 投資CF(億円) | 現金残高(億円) | 配当総額(億円) | DOE |
|---|---|---|---|---|---|
| 2010/3 | 104.6 | △48.2 | 226.3 | 19.4 | 2.9% |
| 2011/3 | 66.9 | 14.6 | 285.1 | 20.9 | 3.0% |
| 2012/3 | 84.0 | △43.9 | 301.1 | 22.2 | 3.0% |
| 2013/3 | 94.8 | △183.1 | 189.8 | 23.5 | 3.0% |
| 2014/3 | 112.3 | △48.5 | 237.7 | 24.8 | 2.9% |
| 2015/3 | 130.8 | △1.4 | 352.2 | 28.1 | 2.9% |
| 2016/3 | 146.1 | △70.3 | 374.5 | 30.0 | 2.8% |
| 2017/3 | 183.3 | △32.7 | 476.2 | 55.5 | 5.0% |
| 2018/3 | 164.4 | △79.5 | 489.0 | 60.1 | 5.1% |
| 2019/3 | 132.8 | △81.5 | 453.8 | 67.3 | 5.4% |
| 2020/3 | 182.4 | △168.0 | 406.4 | 69.2 | 5.4% |
| 2021/3 | 197.1 | △97.6 | 411.9 | 69.9 | 5.3% |
| 2022/3 | 116.9 | △83.4 | 450.0 | 70.6 | 5.0% |
| 2023/3 | 198.5 | △90.6 | 479.4 | 69.8 | 4.8% |
| 2024/3 | 284.8 | △75.7 | 596.4 | 71.7 | 4.7% |
| 2025/3 | 267.5 | △111.2 | 624.5 | 79.8 | 4.8% |
| 2026/3 | 87.8 | △274.7 | 546.1 | 87.0 | 4.8% |
- 各年の決算短信より。△はマイナス(支出)です。四捨五入で億円にしています
- 営業CF=本業で稼いだ現金です
- 投資CF=工場や設備、企業の買収などへの投資による現金の出入りです。お金を使うとマイナスになります(投資をした印であって、それ自体が悪い数字ではありません)
- 配当総額=その期の配当(中間+期末)の総額です
- DOE(株主資本配当率)=会社の元手(自己資本)に対して、どれだけ配当を出しているかのものさし。決算短信では「純資産配当率」として開示されています
営業CF(本業で稼いだ現金)の列には、17期をとおしてマイナスの年がありません。多くの年で、配当総額は営業CFの半分以下に収まってきました。DOEも2.9%から4.8%へ上がっていて、配当が厚くなった歩みがこの列にも出ています。
ただし、いちばん右下の年に目がとまります。2026年3月期は営業CFが87.8億円と、その前の2年(284.8億円・267.5億円)から大きく減り、配当総額87.0億円とほぼ同じ額になりました。会社はこの減少の主な要因に、預け金の増加169.5億円や仕入債務の減少などを挙げています。決算説明会の資料では、この預け入れ(スタイラム社の株式取得に向けた一時金)を除いた営業CFを257.2億円と示しました。同じ年に投資CFは274.7億円の支出(関係会社株式の取得による支出179.9億円など)で、借入も増えました。お金を大きく動かした年であることは確かなので、ここは⚖️の章であらためて見ます。
配当総額の列にも、小さな発見があります。2023年3月期の総額(69.8億円)は、前の年(70.6億円)をわずかに下回っています。1株あたりの配当は増えたのに、です。期首の2022年4月に実施した自社株買いで株数が減った分、同じ「1株あたり」でも総額は小さくなりました。1株の配当と配当の総額は、別の動きをすることがあります。
配当の原資と、それを支える財務。ここまでは数字の形を見てきました。次は、この17期に何があったのかを、会社自身の言葉でたどっていきましょう。
📖 増配の歩みを、会社の言葉でたどる
ここからは、各年の決算短信で会社自身がどう説明してきたかを、時系列でたどります。(この章の記述は、各年の決算短信にある会社の説明に基づいています。)
2010年〜2011年:リーマン後の谷から、震災の年も配当を積む
出発点の2010年3月期は、世界的な金融危機のあとの年です。売上は7.6%減りましたが、コスト削減などで純利益は24.2%増えました。この時代の短信には、還元の方針がこう書かれています。「株主還元につきましては連結配当性向30%以上を目安に実施してまいります」。配当は30円。期末を2円増額しての着地でした。翌2011年3月期は、期末の直前に東日本大震災が起きます。短信は「先行きの不透明感が増しております」と記しながら、災害による損失を計上したうえで、配当は32円へ積み増しました。
2012年〜2014年:アジアへ。買収で会社のかたちが変わる
2012年3月期の配当は、記念配当2円を含む34円でした(普通配当は32円で前の年と同額。この年は自己株式230万株の消却も実施しています)。そして2012年12月、会社はフィンランドの接着剤メーカー、ダイネア社のアジア太平洋部門を買収します。取得原価は約136億円。この買収が効いて、2014年3月期の売上は39.2%増えました。短信は「アイカ・アジア・パシフィック・ホールディング社及びその子会社の業績が、第1四半期連結会計期間より組み入れられ、連結業績に大きく寄与いたしました」と記しています。海外で稼ぐいまの形は、ここから始まりました。
2015年〜2016年:事業の入れ替え。電子を手放し、フェノールを迎える
2015年3月期、会社は「経営資源の選択と集中の観点から」プリント配線板事業を譲渡しました(事業譲渡益13.8億円)。同じ年に昭和電工のフェノール樹脂事業の譲受を決め、翌期から連結に加わります。売る事業と買う事業を入れ替えながら、化学品の軸を育てていった時期です。配当は43円、46円と積み増しが続きました。
2017年:創立80周年。還元の水準が一段上がる
2017年3月期の配当は85円。うち32円は創立80周年の記念配当です。ただ、この年の意味は記念配当だけではありません。同じ時期に示された新しい中期経営計画の配当方針に、こんな一文が入りました。「連結配当性向50%を目処に、業績に連動した株主還元を実施してまいります」。それまでの「30%以上を目安」から、50%へ。実際、この年の配当性向は50.2%で、翌年からも記念配当なしで92円、103円と、50%前後の水準が続いていきます。表Aで見た段差の正体は、この方針の引き上げでした。
2018年〜2020年:セグメントを2つに束ね、コロナでは予想を「未定」に
2018年3月期、会社は建装材と住器建材のセグメントを統合し、いまの「化成品」「建装建材」の2区分にしました。理由は「用途開拓により(中略)市場性に大きな差がなくなってきたこと」。台湾・タイの会社も仲間に加わります。2020年3月期はコロナの年です。会社は翌期の業績予想と配当予想を「未定」としました(この17期で唯一の「未定」です)。それでも、その期の配当は106円へ増やしています。
2021年:コロナの谷。配当性向64.9%で1円の増配
2021年3月期は売上8.8%減・純利益15.5%減と、コロナの影響が数字に出ました。短信には「グループ一丸となって業務改革を推進し、生産効率の向上、各種コスト削減などに努め、下半期においては利益改善効果が現れました」とあります。配当は106円から107円へ。1円の増配ですが、配当性向は64.9%まで上がりました。利益が減っても配当を守り、そのぶん配当性向が上がった年です。
2022年:転換社債180億円と自社株買い。お金の設計が動く
2022年3月期は増収増益に戻りました。そして期末直後の2022年4月、会社は2027年満期のユーロ円建転換社債(発行総額180億円・利息なし・転換価額3,283円)の発行と、40億円を上限とする自社株買いを決めます(この期の短信に「後発事象」として開示されました)。調達したお金の使いみちには、海外子会社の株式追加取得などが並びました。海外への投資と株主還元を、社債と自社株買いで組み合わせる設計です。この設計の意味は、⚖️の章でもう一度見ます。
2023年:減損で23.3%の減益。それでも109円へ
2023年3月期は、この17期でいちばん深い谷です。建装建材のグループ会社に関わる減損損失35.3億円を計上し、純利益は23.3%減の100.6億円になりました。それでも配当は108円から109円へ。配当性向は69.3%と、17期で最も高い水準です。なお、この年の配当の総額は前の年をわずかに下回っています(期首の2022年4月に実施した自社株買いで株数が減ったためで、1株あたりでは増配です)。
2024年〜2026年:収益性の改善で最高益。配当は138円へ
2024年3月期、純利益は50.5%増の151.4億円へ跳ねました。短信は「コストダウンの徹底、商品統廃合、適正な売価設定、高付加価値商品へのシフトなどに注力し、利益を創出いたしました」と説明しています。2025年3月期は126円(期末を66円から70円へ増額)、そして2026年3月期は138円。純利益は185.3億円まで育ち、配当性向は46.5%に落ち着きました。2025年からは60億円を上限とする自社株買いも進んでいます。そして2026年5月、インドのスタイラム社の連結子会社化を発表し、この流れの先に、2026年8月4日の「140円→144円」の増額修正があります。
ここで、冒頭の答え合わせをします。この17期の増配を支えたのは、44.5億円から185.3億円へ育った利益そのものでした。配当性向は、入口と出口でほぼ同じです。ただし途中には、節目がふたつあります。2017年に方針を「30%以上」から「50%目処」へ引き上げた一度のギアチェンジ。そして、利益の谷の年(2021年・2023年)に、配当性向を上げてでも配当を下げなかった場面です。ふだんは利益の伸びで増やし、谷では配当性向を上げてでも守り、節目に一度だけ水準を上げる。それがこの会社の増配の作り方だったと、私は読んでいます。
🧭 会社はこれからをどう描いているか
次は、会社が示している計画を見てみましょう。この章に出てくる目標や計画はすべて会社が公表しているもので、達成が約束されたものではありません。(出典:中期経営計画の資料、2026年3月期と2027年3月期第1四半期の決算短信・説明資料、2026年8月4日の配当予想修正のお知らせ)
いま動いているのは、中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」の最終年度です
計画の名前にある3000と300は、掲げられた当初の目標、売上高3,000億円と経常利益300億円のことです。
このほかに、海外売上高比率50%以上、ROE10%目処などの目標が並びます。最終年度は2027年3月期です。
ただし、目標はその後に動いています。
経常利益は2026年3月期に301.4億円と、当初の300億円を1年前倒しで上回りました。
そのうえで会社は2026年、目標そのものを売上高2,800億円・経常利益320億円へ見直しました。有価証券報告書には「中期経営計画策定時から変更しております」と注記されています。
売上の目標を下げ、利益の目標を上げた形です。理由について会社は、売上が「海外事業の成長鈍化などにより、低調に推移しました」と説明し、あわせて見直し後の目標を「達成してまいります」と記しています。
見直し後の目標に対する現在地は、こうです。
売上高は、8月の上方修正後の会社予想が2,900億円。見直し後の目標2,800億円を上回る計画になりました(スタイラム社の連結が押し上げています)。
経常利益の今期予想は353.0億円で、こちらも見直し後の320億円を上回る計画です。
一方、海外売上高比率は、計画が始まる前の51.2%から45.8%へ、3年間で5.4ポイント下がりました(途中の2025年3月期は前の期並みです)。目標の50%以上に対して、ここは未達の項目です。ただし会社は、建装建材の海外は収益性・成長性が向上し、化成品の海外も3年目の後半からは回復傾向にあると説明しています。第1四半期はスタイラム社の連結もあって49.8%まで戻しました。
インドのスタイラム社が、仲間に加わりました
会社は2026年3月期の短信で、スタイラム社(Stylam Industries Limited)の「株式40.0%~53.12%を取得して」連結子会社にする予定と記しました。目的は「インドにおける生産拠点および販売網の拡大、グローバル展開への加速」です。同社はインドのメラミン化粧板メーカーです。取得は創業家からの譲受とTOB(株式公開買付け)で段階的に進められ、2027年3月期の第1四半期から連結に加わりました。第1四半期の同社の売上は55.4億円(インド国内13.4億円・国外42.0億円)です。この連結もあって第1四半期は売上19.4%増・営業利益44.9%増となり、会社は通期予想を上方修正しました(純利益予想186億円→195億円)。
※連結子会社のため、売上は全額が会社の売上に加わります。いっぽう利益のうち親会社の取り分になるのは持分に応じた分で、残りは非支配株主のものです。
還元方針は「減配をしない累進配当」と「機動的な自己株式取得」です
中期経営計画は、株主還元をこう書いています。「減配をしない累進配当を継続」。あわせて「機動的な自己株式取得」を掲げ、実際に2025年からは60億円を上限とする自社株買いが行われました。有価証券報告書の配当政策にも、累進配当の継続が記されています。一方で、この中期経営計画に配当性向の数値目標は書かれていません。かつての「30%以上」「50%目処」のような配当性向の目安から、「減配しない」という方針の言葉へ、書き方が変わってきています。8月4日の増額修正で、今期の予想配当は144円(中間72円・期末72円)になりました。
会社が示した数字は、ここまでです。見直した目標に対して、今期の会社予想は売上も経常利益も上回る計画になりました。残っているのは海外売上高比率で、第1四半期の49.8%が通期でどこに着地するのか。そして次の中期経営計画で累進配当がどう引き継がれるのか——そこが私には気になりました。次の章で、気がかりな点と支えになりそうな点を並べてみます。
⚖️ 気をつけたいところと、支えになりそうなところ
ここからは、リスクや弱みと、支えになりそうなところを並べてみます。
気をつけたいところ
① 2026年3月期は、営業CFと配当総額がほぼ同じ額でした。
本業で稼いだ現金87.8億円に対して、配当総額は87.0億円。17期でいちばん差額が縮まった年です。ただし、この数字には両面があります。会社は決算説明会の資料で、スタイラム社の株式取得に向けた一時金の預け入れ(約170億円)を除いた営業CFを257.2億円と示しています。お金が消えたのではなく、置き場所が変わった面があるということです。一方で、配当総額が営業CFの半分を超えた年は過去にもあります(2019年3月期50.7%・2022年3月期60.4%)。そしてこの年は、同時に投資へ274.7億円を使い、短期借入金が289.3億円増えました。自己資本比率も58.4%と、17期の中で低いほうから2番目の水準です(会社は資本政策で自己資本比率50%以上を目安に置いています)。買収と還元を同時に進めるために、手元のお金と借入を大きく動かしていることは確かです。この差額が来期どうなるかは、📌の章で見るポイントに入れました。
② 転換社債の転換が進むと、株数が増えます。
2022年に発行を公表した転換社債(180億円・転換価額3,283円)は、2026年3月期に一部が株式へ転換され、残高は111.0億円になりました。これまでの転換には手持ちの自己株式が充てられており、発行済みの株式の総数は変わっていません。ただ、自己株式には配当が支払われないため、転換が進めば配当を受け取る株の数は増え、1株あたりの計算の分母もふくらみます。潜在株式を織り込んだ1株利益は275.84円と、ふつうの1株利益(296.48円)より7.0%小さい数字です。株価(2026年8月21日終値で4,077円)は、この転換価額を上回っています。17期の「株数約3%減」の裏に、これから分母が増える要因が残っていることは、頭に置いておきたい点です。
③ 純利益には波があり、谷の年は配当性向が70%近くまで上がりました。
17期のうち4回、純利益は前の年を下回りました。2023年3月期は減損損失35.3億円で23.3%の減益です。累進配当のもとで減益が続けば、配当性向だけが上がっていきます。実際、2021年3月期は64.9%、2023年3月期は69.3%でした。利益が戻ったからこの水準で済んだ、という見方もできます。直近の第1四半期も、純利益の伸び(5.7%増)は営業利益(44.9%増)よりずっと小さい数字でした。スタイラム社の連結に伴う一時的な費用(段階取得に係る差損9.06億円)に加え、税金や、非支配株主に帰属する利益が増えたためです。配当の原資である利益そのものの推移を、配当より先に見るようにしています。
④ 原材料の価格が、利益を左右してきました。
化学品も建材も、原油や樹脂の値動きの影響を受けます。会社の短信には「原材料価格の高騰」の言葉がたびたび登場し(古くは2018年3月期にも)、決算説明会の質疑でも原材料の見通しに質問が集まりました。値動きの目安も、会社の開示にあります。決算説明資料が主要原材料価格の参考指標として示す国産ナフサ価格は、2026年3月期の実績で1klあたり67,100円。今期の計画は、これが97,600円へ上がる想定で組まれています。2023年の中期経営計画説明会の質疑でも、社長が「過去のようにナフサが3~4万円にまで下がってくることも考えにくく」と答えていて、原材料の高い水準は続く前提です。値上げで吸収してきたのがこの数年の形で、たとえば2026年3月期の建装建材(アイカ工業単体)では、原材料などの影響が利益を約16億円押し下げたのに対し、価格転嫁とコストダウンで約17億円を取り返しています(決算説明資料の増減分析より)。それでも吸収しきれない年は、2023年3月期のように利益の谷になります。
⑤ のれんが大きくなりました。減損の前歴もあります。
買収を重ねる会社なので、のれん(買収額のうち相手の純資産を上回って払った分)が積み上がります。スタイラム社の連結で、のれんは16.6億円から201.8億円へ増えました。過去には2023年3月期に35.3億円(固定資産などに関連する減損・短信の記載より)、2025年3月期に14.2億円の減損損失を計上しています。買収先が計画どおりに育たなければ、のれんも損失に変わりえます。海外の成長と引き換えに背負う重さとして、四半期ごとに残高を見ていくつもりです。
支えになりそうなところ
① 会社の開示で、17期連続増配・28期連続減配なしです。
私が確認した17期分の短信でも、年間配当は毎年増えていました。そのうえで会社は「減配をしない累進配当を継続」と中期経営計画に明文化し、有価証券報告書の配当政策にも同じ言葉を置いています。宣言より先に実績がありました。※過去の実績と会社の方針は、将来の配当を約束するものではありません。方針そのものも、会社の判断で変わりえます。
② 営業CFは17期すべて黒字です。
年によって66.9億円から284.8億円まで波はありますが、赤字の年はありません。多くの年で配当総額は営業CFの半分以下に収まってきました(直近の2026年3月期が例外的に接近したことは、上の①のとおりです)。
③ 利益をいちばん稼ぐ建装建材は、国内シェアNo.1の製品を持っています。
会社は統合報告書で、メラミン化粧板を「国内シェアNo.1」と記しています(この記載に調査機関などの出所の注記は見当たりませんでした)。建装建材のセグメント利益は248.0億円と、化成品(93.3億円)の2倍を超えます。そしてこの建装建材自身も、スタイラム社を迎えて海外へ広がり始めました。国内で磨いてきた製品の稼ぐ力が、配当と海外展開の土台にあります。
📌 次に見ようと思っているポイント
これからの決算で、私はこんなところを見ようと思っています。予想ではなく、「どの資料の、どの数字を見るか」の話です。
① 累進配当の言葉が、次の計画にどう引き継がれるか。
いまの中期経営計画は2027年3月期で最終年度です。決算短信の「配当の状況」と、次の中期経営計画(2027年5月ごろの発表が目安です)の還元方針の書き方を見ます。「減配をしない累進配当」の言葉が残るか、配当性向やDOEのような数値の目安が復活するか。書き方の変化は、方針の変化のサインだと思っているからです。
② スタイラム社を含む海外の売上と、のれんの残高。
決算短信のセグメント情報と、決算説明会資料の海外売上高のページで毎回確認できます。中計期間に5.4ポイント下がった海外売上比率(45.8%)が、スタイラム社の連結で第1四半期に49.8%まで戻しました。この水準が続くのか。あわせて、のれん201.8億円の残高と減損の有無を、四半期ごとの短信で見ていきます。
③ 営業CFと配当総額の差額。
キャッシュ・フロー計算書で年に2回(中間と通期)確認できます。2026年3月期に87.8億円対87.0億円まで縮まった差額が、預け金の動きが落ち着いたあとにどこまで戻るのか。配当の原資の余裕を測る、いちばん素直な物差しだと思っています。
もし「ここも見ると良いよ」という数字をご存じの方がいらっしゃいましたら、教えていただけるとうれしいです。
🔍 もう少し深く ― 化粧板と接着剤が使われる現場の土台は、どうなっているのか
ここは、アイカ工業の商売の土台が、世の中でどうなっているのかを、公的な統計で確かめる章です。深掘りの補足なので、お急ぎの方は「おわりに」へ進んでも大丈夫です。
確かめたいことは3つ。国内の内装の現場、接着剤という商売の土台、そして海外です。順に見ていきましょう。
国内の土台 ― 新築は減り、リフォームは増えている
メラミン化粧板や不燃建材が使われるのは、住宅や店舗、オフィスの内装です。まず新築から。国土交通省の建築着工統計によると、2025年度の新設住宅着工は71万1,171戸で、前の年度より12.9%減りました。統計の掲載表でいちばん多かった2006年度(約128.5万戸)と比べると、6割に届かない水準です。非住宅(民間・非居住用)の着工床面積も3,246万平方メートルと6.6%減で、4年連続の減少でした。新しく建てる現場の数は、住宅も非住宅も縮んでいます。
一方で、いまある建物の側は動いています。国土交通省の建築物リフォーム・リニューアル調査によると、2025年度の受注高は16兆4,104億円と、前の年度より18.7%増えました。内訳は住宅が4兆9,033億円、非住宅が11兆5,071億円です。(この調査は一部の業者を対象にした標本調査からの推計値なので、全数を数える着工統計と同じ物差しでは比べられません。)新築の現場が減るなかで、机の天板やカウンターを張り替える側の需要が積み上がっている。この対照は、化粧板の売り先を考えるうえでの土台になりそうです。
接着剤の土台 ― 規模を統計で確かめられない市場
接着剤そのものの市場の大きさは、公的な統計からは取り出せませんでした。経済産業省の生産動態統計に「接着剤」という品目がないためです。かわりに、その原料側の数字は少しだけあります。同統計の2025年の実績で、木材加工の接着剤などに使われるフェノール樹脂の生産は11万4,601トン、接着剤用のメラミン樹脂は3万2,393トンでした。測れるのはここまでです。市場全体の規模や推移は測れない、というのがここでの答えです。(なお、原材料の価格そのものの動きは、⚖️の章の④に会社の開示から書いています。)
海外の土台 ― インドの建設は伸びている
会社が2026年に仲間に加えたスタイラム社の本拠地、インドを見てみます。インド統計・計画実施省の国民経済計算によると、建設業の実質付加価値は直近年度で前の年度より7.4%増えました。日本の建設市場とは、伸びの向きが違います。ただし、インドの住宅着工戸数のような細かい統計は見つけられませんでした。タイ・ベトナム・インドネシアの建設業だけを取り出した統計も、今回は取り出せませんでした。会社の開示で分かるのは、ふたつです。スタイラム社の第1四半期の売上が55.4億円(インド国内13.4億円・国外42.0億円)だったこと。そして会社が統合報告書で、タイ・ベトナム・インドネシアのメラミン化粧板市場を「シェアNo.2」(当社調べ)と記していることです。新築の現場の数は減り、リフォームとインドの建設が伸び側にあります(この環境でも、会社の建装建材の売上は1,063億円→1,101億円→1,155億円と3期続けて伸びてきました)。国内の建材で稼ぎながら海外へ広がるという会社の方向は、この地形と噛み合って見えます。
☕ おわりに
「アイカ工業(4206)は、これからも増配を続けられそうか」。この問いに、未来を予測して答えることはできません。
確かなことは、3つあります。17期連続の増配と、その主役が育った利益そのものだったこと。「減配をしない累進配当」という方針が、実績のあとから明文化されたこと。そして、営業CFが17期すべて黒字だったことです。気がかりなのも3つ。直近の2026年3月期に営業CFと配当総額がほぼ並んだこと。転換社債の転換で、配当を受け取る株数が増える要因が残っていること。買収で積み上がったのれんに、減損の前歴があることです。いずれも、いまある事実です。
私が見ていくものさしは、2つです。ひとつは、累進配当の言葉が次の計画へどう引き継がれるか。もうひとつは、海外です。海外売上比率は、この中期経営計画でいちばん目標に届いていない場所でした。その場所に、会社はスタイラム社という新しい足場を置きました。谷の年に配当性向で守り、ふだんは利益で増やす。この作り方が続くかどうかは、利益をいちばん稼いできた国内の建装建材が力を保てるか、そして売上を伸ばしてきた海外が利益の側でも効いてくるか——この2つの重なり方しだいだと私は読んでいます。
この先どうなるかは、これからの数字が教えてくれます。予想はせず、四半期ごとの短信でセグメントの売上とのれんを、年に一度の説明資料で海外売上比率を確かめながら、淡々と見ていこうと思います。
みなさんは、どう考えますか。
出典・一次ソース
- 各年の決算短信(2010年3月期〜2026年3月期・17期分)および2027年3月期第1四半期決算短信:アイカ工業株式会社(会社サイトIRライブラリおよびIRBANKのミラーより取得)
- 中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」(2023年4月28日・同5月1日一部訂正):アイカ工業株式会社
- 配当予想の修正(増配)に関するお知らせ(2026年2月3日・2026年8月4日)/剰余金の配当及び2027年3月期配当予想に関するお知らせ(2026年5月1日):アイカ工業株式会社
- 2026年3月期 決算説明会資料(2026年5月25日)・2027年3月期 第1四半期決算短信補足資料(2026年8月4日):アイカ工業株式会社
- 有価証券報告書 第126期(2026年6月19日提出)・AICA Report 2025(統合報告書):アイカ工業株式会社
- 国土交通省「建築着工統計調査」(新設住宅着工戸数・民間非居住用着工床面積)・「建築物リフォーム・リニューアル調査」(2025年度受注高)(🔍章)
- 経済産業省「生産動態統計(化学工業)」(フェノール樹脂・メラミン樹脂の2025年生産実績)(🔍章)
- インド統計・計画実施省(MoSPI)国民経済計算(建設業の実質付加価値)(🔍章)
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著者:ミーナ 更新日:2026-08-23