ヒューリック(3003)は、これからも増配を続けられそうか
利益も配当も、年を追って増えてきました。これからもそれが続けられそうか、数字でたどってみます。
☕ まずは30秒だけ
なんでこの会社は、これだけ長く増益と増配を続けてこられたんだろう? そして、それを支えているものは何で、これから何が試金石になるんだろう? この記事で、順番に確認していきますね。
(お忙しい方は、ここだけ読めば大筋がつかめます。気になったら下へどうぞ。)
ざっくり言うと
ヒューリック(3003)は、東京の都心にある駅近のビルを持ち、その賃貸でコツコツ稼ぐ不動産会社です。賃貸の安定収益に加えて、持っている物件を入れ替える(売る)ときの利益や、新しい建物の開発でも稼いでいます。
2013年に160億円だった純利益は、2025年には1,143億円まで伸びています。1株あたりの配当も、年々増えてきました。
会社は「上場以来の連続増益増配」と説明しています。ただ、その「上場以来」のスタート地点には、少し読み解きが要ります(「数字でみる章」で触れます)。
利回りは?
2025年12月期の実績配当62円を株価1,725.5円(2026年6月12日の終値)で割ると、約3.6%です。会社が予想する2026年12月期の配当67円で計算すると、約3.9%です。(前者は実績の配当、後者は会社予想の配当で計算した参考の数字です。株価で変わりますし、将来の配当・利回りを約束するものではありません。)
配当は年2回(中間と期末)、12月期決算の会社です。期末配当の権利が確定するのは、例年12月末です。
おさえどころ3つ
① 東京23区を中心とした駅近の好立地の物件を持ち、その賃貸でコツコツ稼ぐのが土台です。物件の72%が、駅から徒歩5分以内にあります。
② 増益・増配を支えてきたのは、賃貸の安定した収入に、物件を売ったときの利益と、開発でつくり出す利益を重ねてきたことです。この拡大は、借入も活用して進めてきました。ただし物件売却の利益は、その年に何を売るかで大きく振れます。
③ 会社は2026年12月期の予想として、純利益1,210億円・配当67円(増配)を見込んでいます(あくまで会社予想なので、達成は約束されるものではありません)。
ただ、手放しで安心という話ではありません。気をつけたい点も、後半でしっかり並べます。
(この記事は、ひとりの観察者ミーナの記録です。売買をすすめるものではありません。数字は会社の公表資料などに基づきますが、正確性は保証しません。投資の判断はご自身で。)
🏙️ 都心の駅近ビルを持ち、その賃貸でコツコツ稼ぐ
東京の都心を歩いていると、駅のすぐそばにはオフィスビルや商業ビルがたくさんあります。そうした立地のいい建物を持ち、テナントに貸して家賃を受け取る。ヒューリックは、これを土台にしている会社です。
持っている物件は約250件で、その中心は東京23区。しかも、駅から徒歩5分以内にある物件が72%にのぼります。立地のいい場所ほど、借り手が途切れにくく、家賃も下がりにくい。ここが、収益の安定した土台になっています。
会社の事業は、大きく3つに分かれます。
1つ目は不動産事業。これが圧倒的な主力で、賃貸の収入と、物件を売ったときの利益、新しい建物の開発による利益が、ここに含まれます。
2つ目はホテル・旅館事業(観光に関わる施設の運営)。
3つ目は保険事業(保険代理店など)です。
このうち、稼ぎの大半を生んでいるのは不動産事業です。どれくらい偏っているかは、次の章の数字ではっきりします。
そして、ヒューリックの稼ぎ方には、もうひとつ特徴があります。家賃でコツコツ稼ぐだけでなく、持っている物件を入れ替える(売る)ことでも利益を出している点です。立地のいい物件を仕込み、価値を高めて売る。この「入れ替え」が、利益を押し上げる一方で、年ごとの振れも生みます。
この「賃貸の安定収入+物件の売却益+開発」という稼ぎ方の形が、この後の数字の動きを読むときの手がかりになります。
📊 数字でみる:利益も配当も、年を追って増えてきた
ここで、「2つの会社」の話を
表を見る前に、ひとつ押さえておきたいことがあります。
いまの会社名は「ヒューリック」ですが、上場している器(コード3003)は、もともと「昭栄」という別の会社でした。2009年と2011年には、この会社に赤字の年がありました。けれども、それは昭栄が抱えていたもので、いまヒューリックが手がける不動産事業の不振ではありません。
2012年に、昭栄が、実体の不動産会社だった「旧ヒューリック」を引き継ぐ形で、一つになりました。この年に黒字へ転じた利益には、合併にともなう一時的な利益も含まれています。
ですから、ヒューリックが地力で増益を続けていると確かめやすいのは、2013年以降の数字です。このあとの表Aが2013年から始まっているのは、このためです。会社自身は「上場以来の連続増益増配」と説明しています。
表A:純利益・1株配当・配当性向・自己資本比率(各12月期)
| 決算期 | 純利益(億円) | 1株配当(円) | 配当性向 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|
| 2013 | 160 | 6.5 | 24.1% | 24.4% |
| 2014 | 224 | 10.5 | 27.8% | 26.1% |
| 2015 | 336 | 15.5 | 29.4% | 28.6% |
| 2016 | 349 | 17.0 | 32.1% | 29.7% |
| 2017 | 424 | 21.0 | 32.6% | 27.7% |
| 2018 | 495 | 25.5 | 33.9% | 26.2% |
| 2019 | 588 | 31.5 | 35.4% | 25.8% |
| 2020 | 636 | 36.0 | 37.8% | 24.0% |
| 2021 | 696 | 39.0 | 38.6% | 28.8% |
| 2022 | 792 | 42.0 | 40.4% | 29.5% |
| 2023 | 946 | 50.0 | 40.2% | 30.8% |
| 2024 | 1,023 | 54.0 | 40.2% | 27.3% |
| 2025 | 1,143 | 62.0 | 41.2% | 26.0% |
- 配当性向(利益のうち配当に回す割合)は、1株配当÷1株当たり利益〔EPS〕から算出しています(端数処理により、会社が開示する値と0.1ポイント程度の差が出ることがあります)。
- 表Aの13期は、いずれも普通配当で、記念配当・特別配当は含まれていません。
- 2026年12月期は、会社予想で配当67円・予想配当性向42.0%です(会社予想であり、達成を約束するものではありません)。
- 自己資本比率は、不動産会社としては低めの水準です(背景は「気をつけたいところ」で触れます)。
2013年に160億円だった純利益は、2025年には1,143億円まで増えています。1株あたりの配当も、6.5円から62円へと増えてきました。配当性向は、2013年の24.1%から段階的に上がり、近年は40%前後で推移しています。つまり、利益の伸びに加えて、配当に回す割合そのものも引き上げてきた形です。
表B:キャッシュフローと配当の関係(億円・DOEは%)
本業からどれだけ現金が入り、それをどれだけ物件の取得に回し、株主への配当をどれだけ厚くしてきたか。この3つを並べた表です。
| 決算期 | 営業CF | 投資CF | 現金期末 | 配当金総額 | DOE |
|---|---|---|---|---|---|
| 2013 | 111 | △495 | 166 | 39 | 2.3% |
| 2014 | 841 | △838 | 211 | 63 | 3.2% |
| 2015 | 363 | △2,846 | 310 | 103 | 3.7% |
| 2016 | 1,084 | △1,110 | 227 | 113 | 3.4% |
| 2017 | 457 | △1,891 | 280 | 139 | 3.8% |
| 2018 | 1,310 | △2,581 | 319 | 169 | 4.3% |
| 2019 | 2,312 | △3,583 | 484 | 210 | 4.8% |
| 2020 | 2,023 | △3,431 | 947 | 242 | 5.0% |
| 2021 | 2,917 | △2,869 | 2,061 | 281 | 4.9% |
| 2022 | 2,661 | △3,453 | 1,383 | 322 | 4.8% |
| 2023 | 2,708 | △2,983 | 828 | 383 | 5.2% |
| 2024 | 3,534 | △6,020 | 1,343 | 414 | 5.1% |
| 2025 | 2,692 | △5,445 | 1,306 | 475 | 5.3% |
- 表中の△はマイナスを表します。
- 営業CF(営業キャッシュフロー)=本業で実際に入ってくる現金です。
- 投資CF(投資キャッシュフロー)=物件の取得などへお金を出すと、マイナスになります。13期すべてがマイナスで、物件を取得し続けてきたことを示します。
- 現金期末=その期末に手元にある現金です。残高は、資金調達(社債・借入など)と、物件の取得・売却のタイミングによって、年ごとに大きく動きます。
- 配当金総額=その年に株主へ支払った配当の合計です。
- DOE(純資産配当率)=純資産(株主の持ち分)に対する配当の割合。数字が上がるほど、純資産に対して配当が厚くなっていることを示します。
- (参考)営業収益(売上)は、物件の売却が多い年ほど膨らみ、年ごとに大きく変動します。会社自身も予想を出さないほど振れる数字なので、この記事でも軸にしていません。
表Bを13期で見ると、DOE(純資産配当率)が2013年の2.3%から2025年の5.3%へと、途中わずかに下がる年を挟みながらも、水準を上げてきました。つまり、純資産に対して、株主への配当を段階的に厚くしてきた形です。本業からは毎年しっかりと現金が入ってきていますが、その現金を上回る規模で物件の取得(投資CFのマイナス)を続けてきたことも読み取れます。だからこそ、金利の動きとあわせて、この営業CFと支払利息がこれからどう動くかは、見てみたいところです(後半の「気をつけたいところ」でくわしく扱います)。
セグメント別の小表(営業収益/セグメント利益・億円)
つづいて、どの事業がどれくらい稼いでいるかを直近3期で見てみます。
| セグメント | 2023 収益 | 2023 利益 | 2024 収益 | 2024 利益 | 2025 収益 | 2025 利益 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 不動産事業 | 4,014 | 1,544 | 5,173 | 1,704 | 6,280 | 1,981 |
| ホテル・旅館事業 | 371 | 10 | 488 | 17 | 539 | 17 |
| 保険事業 | 36 | 11 | 37 | 10 | 39 | 11 |
| その他 | 42 | 5 | 219 | 22 | 416 | 21 |
- 各セグメントの利益を足し合わせても、本社費用などの調整(2025年は△162億円)が含まれるため、会社全体の連結営業利益(2025年は1,868億円)とは一致しません。
- 利益のほぼすべてを不動産事業が生んでいます。
- ホテル・旅館事業は、コロナ禍の影響で2020年から2022年まで3期連続の赤字でしたが、2023年に黒字へ転じています。
- 2020年より前は、区分が異なります。
不動産事業が、売上でも利益でも全体を大きく支えています。ホテル・旅館事業と保険事業は、それを補う位置づけです。最初の章で触れた「不動産事業が稼ぎの大半」という形が、ここで数字として表れています。
ここまでをまとめると、自己資本比率は直近で26〜27%と、不動産会社としては低めの水準です。これは、借入を活用して事業の規模を大きくしてきたことの裏返しでもあります。この点は、「気をつけたいところ」であらためて触れます。
では、なぜこれだけ長く増益・増配を続けられたのか。会社の説明をもとに見ていきますね。
📖 増益・増配を支えてきたのは、賃貸の安定に売却益と開発を重ねてきたから
ざっくり言うと:賃貸でコツコツ稼ぐ土台の上に、物件の売却益と開発の利益を積み重ねて、利益を伸ばしてきた。 以下、その流れを見ていきます。
2012年。 前の章で触れたとおり、昭栄が旧ヒューリックを引き継いで、一つの会社になった年です。売上は前の年の117億円から943億円へと急に増えました。これは、引き継いだ会社の規模が加わったことによるものです。黒字へ転じた利益には、合併にともなう一時的な利益も含まれています。
2013年から。 ここから、地力での増益が積み上がっていきます。賃貸できる面積は、2013年の約67万平方メートルから、2025年には約131万平方メートルへと、ほぼ倍に広がっています。立地のいい物件を取得し、竣工させ、その賃貸収入を積み上げてきました。この賃貸収入が、利益の安定した土台になっています。
その上に重ねてきたのが、物件の売却益です。 ヒューリックは、立地のいい物件を仕込み、価値を高めて売ることでも利益を出しています。会社自身も、決算の説明で「販売用不動産の売買によって営業収益が大きく変動する」と注記しています。
ここは、利益の質を読むうえで大事なところです。利益が毎年きれいに伸びて見えても、その中身には、安定した賃貸収入と、年で振れる売却益が混ざっています。
この「売る」ところには、ヒューリックならではの受け皿があります。会社は、上場している「ヒューリックリート投資法人」と、非上場の「ヒューリックプライベートリート投資法人」の、いずれもスポンサー(後ろ盾)です(出典:会社 統合報告書)。開発した物件の一部を、こうした系列のリートやファンドへ売り、そこから運用の報酬も受け取る——という流れを、会社は方針として掲げています。系列リートが運用する資産の総額は、2022年末の約5,400億円から2023年末に約5,900億円へと増えてきました(出典:会社 統合報告書2024。なお、それ以降の最新の総額は、同じ形では確かめられませんでした)。売る相手を自前で持っていることも、売却益を出し続けるのを支えてきた仕組みの一つです。ただ、それでも市況や各リートの受け入れ余力に左右される部分は残り、売却益が毎年同じように出ることを約束するものではありません。
さらに、開発でも稼いでいます。 新しい建物をつくり出し、その価値を生み出す。賃貸・売却に開発を加えた、出口の多さが、利益を押し上げてきました。
2014年から2019年。 物件の取得と竣工を重ね、賃貸の規模を着実に広げてきた時期です。純利益は、2014年の224億円から2019年の588億円まで、毎年増えています。配当性向も、2014年の27.8%から2019年の35.4%へと段階的に上がり、利益の伸びにあわせて、配当に回す割合も少しずつ厚くしてきました。
2020年から2022年。 コロナ禍の時期です。ホテル・旅館事業は大きく影響を受け、2020年から2022年まで3期連続の赤字になりました(数字でみる章のセグメントの注記のとおりです)。ただ、主力の不動産事業がこれを支え、会社全体としては純利益が増え続けています。636億円(2020年)、696億円(2021年)、792億円(2022年)と、各年で増加しました。一部の事業が逆境にあっても、賃貸の安定した土台が効いた形です。
なお2022年からは、収益認識の会計基準が変わり、営業収益(売上)が見かけ上ジャンプしています。そのため、それ以前の年と売上を単純には比べられません。
2023年。 ホテル・旅館事業が、黒字へ転じました。純利益は946億円で、前期比+19.5%でした。コロナ禍で落ち込んでいた部分が回復に向かい、主力の不動産事業とあわせて、全体の利益を押し上げています。
直近の2024年と2025年。 最高益の水準が続いています。2024年12月期は、純利益1,023億円(前期比+8.1%)。2025年12月期は、純利益1,143億円(前期比+11.7%)でした。
ただ、ここでも利益の中身には注意が必要です。会社全体の純利益には、本業のもうけに加えて、投資した有価証券を売ったときの利益なども含まれます。こうした特別な利益は、年によって増えたり減ったりします。実際、2024年は増え、2025年は減っています。利益の伸びを引っ張っているのは本業ですが、年ごとの数字には、こうした振れも混ざっています。だから私は、増益の数字を、賃貸で積み上がった分と、その年に売った分とに分けて受け取るようにしています。賃貸の分は翌年も残りやすく、売った分はその年かぎりのことが多いからです。
増益・増配を支えてきた背骨。 立地のいい物件を増やして賃貸収入という安定した土台をつくり、その上に、物件の売却益と開発の利益を重ねてきた。これが、長く増益を続けてこられた形です。そして、増えた利益にあわせて、配当も増やしてきました。
一度も増配が途切れなかったのは、毎年すべてが順調だったからというより、安定した賃貸収入という土台があり、その上で利益を伸ばし続けてきた積み重ねによるものです。ただし、その利益には年で振れる売却益が混ざっていること、そして規模の拡大を借入で支えてきたことは、このあと見ていきます。
🧭 会社は、これからをどう描いているか
ここからは、会社がこれからをどう描いているかを見ていきますね。なお、この章から後ろで示す会社の方針・予想・目標は、いずれも会社が公表しているもので、達成を保証するものではありません(以下、個別の注記は省きます)。
会社は2026年2月に、2026年から2036年までの中長期の経営計画を公表しています。
その中で掲げているのが、経常利益(本業のもうけに、利息の受け払いなどを足し引きした利益)の目標です。2026年の1,850億円から、2029年に2,200億円、2036年には3,000億円へ。あわせて、ROE(自己資本に対する利益の割合)10%以上などの目標も置いています。
ちなみに実績は、2023年が13.0%、2024年が12.8%、2025年が13.0%。ここ3年は13%前後です(出典:会社 統合報告書)。あくまで過去の数字で、今後の水準を示すものではありません。
この3,000億円という目標が、賃貸の積み上げで届くものなのか、それとも売却益や借入の拡大をともなって届くものなのか。私が決算のたびに確かめたいのは、目標の金額そのものより、この中身のほうです。そして中身は、外からでも手がかりを追えます。賃貸の土台が広がっているかは「賃貸できる床面積」で、その年どれだけ売却に頼ったかは「物件売却」の記載で、借入の影響は「支払利息」の動きで。それぞれ、どの資料のどの数字を見るかは、「次に見るとよいポイント」にまとめておきます。
注力する分野として挙げているのは、都心・駅近のSクラスと呼ばれる高品質なオフィス、データセンター、そして観光です。一方で、地方やマンションの分譲、大規模な開発は、注力しない領域と位置づけています。
この3分野の追い風そのものは、公的な統計でひととおり確かめられました。オフィスは、土台の地価が上がっていること。観光は、多くの地点でお客さんが戻ってきていること。データセンターは、国も需要は増えていくと整理していること。ただ、それが会社の稼ぎにいつ・どれだけ表れるかは、これからの数字で答え合わせをしていく領域だと思っています。——確かめた中身は、記事の後ろ(🔍の章)にまとめたので、お時間のあるときにどうぞ。
株主への還元については、配当性向40%以上を維持しつつ、中期的に45%へ段階的に引き上げる方針を示しています。2026年12月期の配当は、67円への増配を予想しています。
ひとつ補っておくと、会社が配当の基準にしているのは「配当性向」(利益のうち配当に回す割合)です。数字でみる章で並べたDOEは、結果として表れた割合で、会社が「DOEを下限として約束する」と書いているわけではありません(出典:会社IR 配当方針・中長期経営計画)。
配当性向が基準だと、配当は利益と連動します。利益が増えれば、配当も増えやすい。逆に利益が落ちれば、配当もそれに連れて動きうる。そういう仕組みです。
⚖️ 気をつけたいところと、支えになりそうなところ
気をつけたい点・弱み
ここからは、リスクや弱みを並べてみます。それぞれ、最初の一行に要点を書いておきますね。
① 金利の上昇は、気をつけて見ておきたい点です。 ここまで不動産の話をしてきたのに、なぜ急に金利?と思われるかもしれません。ビルを買うお金の多くは、借りたお金だからです。金利は、ヒューリックにとって仕入れ値のようなもの。不動産業の裏側には、いつもお金の話があります。
流れにすると、こうです。
金利が上がる
→ 借りているお金の利息(コスト)が増える
→ その分、利益が削られやすくなる
→ 利益が減れば、配当の余力も細る
ヒューリックは配当性向(利益のうち配当に回す割合)を基準にしているので、利益の増減はそのまま配当につながります。そして、借入が多めの会社ほど、この影響を受けやすい。ヒューリックは借入を活用して規模を広げてきた会社なので、ここは丁寧に見ておきたいところです。
桁感をつかむために、試算をひとつ。借入金(社債を除く)は約1.6兆円あります(2024年末・出典:会社 統合報告書)。仮に、この全体の調達金利が0.1%上がったとします。すると、利息は年およそ16億円増える計算です(1%なら約160億円)。純利益1,143億円(2025年)と並べると、すぐに揺るがす規模ではありません。ただ、積み重なれば効いてくる桁です。
なお、これは単純な割り算による試算で、上限の目安にすぎません。後で触れるとおり、社債は固定金利が中心です。固定の分は借り換えのときまで利率が変わらないので、実際にはこの通りには動きません。
事実として、日本の金利は上がってきました。政策金利は2025年1月に0.5%、2025年12月には0.75%(約30年ぶりの水準)まで引き上げられ(出典:日本銀行 金融政策)、10年国債の利回りも2026年6月時点で2.7%前後です(出典:財務省 国債金利情報)。会社自身も、金利の上昇をリスクとして開示しています。
一方で、時間差という安心材料もあります。会社が発行している社債は、利率を固定したものが中心です。なかでも年限の長い社債(「劣後特約付社債」という種類です)は、返す期限が2055年から2062年。利率は1.2〜1.8%台です(出典:会社IR 格付・社債情報)。固定の分は満期まで利率が変わらないので、世の中の金利が上がっても、新しく借りる分や借り換える分から、少しずつ効いてくる形です。
ただ、借入金全体のうち固定金利と変動金利がどのくらいの比率かは、会社の開示からはひと目では分かりませんでした。その代わり、借入の区分ごとの平均利率は、有価証券報告書の「借入金等明細表」で見られます。次の有報(例年3月ごろに出ます)では、まずここを開いてみようと思っています。
だから私は、金利そのものの水準より、決算書の「支払利息」を見てみたいと思っています。利益の伸びと比べて、どんなペースで増えているか。見るのは金額より、割合です。固定と変動の比率は外から分からなくても、結果は損益計算書の支払利息に表れるからです。
なお、金利が上がる局面は、地価や賃料が上がる局面と重なることもあります(この時期の公示地価は上がっています。くわしくは後ろの🔍の章で)。借入のコストという逆風と、保有資産の価値という面は、同じ環境の両面です。
<詳しく見たい方へ> 細かい数字をここにまとめておきます。借入金(社債を除く)は約1.6兆円。社債なども含めた有利子負債は2024年末で約1.9兆円(借入金は社債を除いた額、有利子負債は社債なども含めた額、という違いです)。借入の重さの目安として会社が示すネットD/Eレシオ(純有利子負債が自己資本の何倍か)は1.6倍(いずれも出典:会社 統合報告書)。社債は固定金利が中心で、劣後特約付社債は2055〜2062年償還・利率1.2〜1.8%台です。
② 利益の中身には、年で振れる売却益が混ざっています。 ヒューリックの利益には、賃貸の安定した収入だけでなく、物件を売ったときの利益が含まれます。この売却益は、その年に何を売るかで大きく振れます。利益が毎年伸びて見えても、その伸びがどこまで安定したものかは、中身を分けて見る必要があります。
会社は、この利益を分けて考える物差しを持っています。連結の営業利益から、物件の売却で得た利益を除いたもの。これを「安定基盤利益」(賃貸でコツコツ積み上げる部分)と呼び、着実に増やしていくと説明しています(出典:会社 統合報告書)。
ただ、その安定基盤利益がいくらなのかは、円の数字で確かめられませんでした。たとえば2025年の配当総額475億円を、売却益を除いた利益だけで賄えているのか。会社が賃貸の利益と売却の利益を金額で分けて開示していないため、そこまでは追えません(出典:会社IR・決算短信)。物差しはあるけれど、目盛りはまだ外に出ていない、ということです。
とはいえ、ここで手詰まりにはなりません。代わりにどこを見ていくかは、このあとの「次に見るとよいポイント」の①に書いておきます。
③ 稼ぎが、都心のオフィス賃貸に偏っています。 ヒューリックの利益のほぼすべては不動産事業が生んでおり、その中心は東京都心のオフィス賃貸です。会社は注力分野として観光やデータセンターも掲げていますが、現在の稼ぎに占める割合は、いまのところ大きくありません。稼ぎ方がオフィス賃貸に寄っていることは、立地のよさという強みの裏返しでもあり、オフィスの需要が将来どう変わるかによっては、その影響を受けやすい形でもあります。偏りの度合いそのものは、数字でみる章のセグメント表で、毎年確かめられます。
支えになりそうな点
弱みと対等に見るために、支えになってきた点も並べておきます。ここに入れるのは積み上げてきた実績だけで、これから試される話とは時間の向きが違うので、分けておきますね。
① 賃貸の安定収入を土台に、増益・増配を重ねてきました。 立地のいい物件からの賃貸収入という土台の上に、売却益と開発の利益を重ねて、利益と配当を伸ばしてきました(表Aのとおり)。13期の間、増配が一度も途切れていないことは、積み重ねてきた事実です。
② 物件の中心が、東京23区の駅近にあります。 駅から徒歩5分以内が72%という物件の顔ぶれは、借り手が途切れにくく、賃貸の安定した収入を生んできました。
③ 配当性向を引き上げる方針を、実際に進めてきました。 配当性向40%以上を維持しつつ中期的に45%へ段階的に引き上げる方針を掲げ、実際に近年は40%前後まで上げてきました(表A)。掲げたことを、数字の中で進めてきた形です。
📌 次に見るとよいポイント(3つ)
これからの決算で、私はこんなところを見ようと思っています。予想ではなく、「どの資料の、どの数字を見るか」の話です。
① 賃貸でコツコツ稼ぐ土台(床面積)が、広がり続けているか 見るのは、有価証券報告書や会社IRにある「賃貸できる床面積」です(2025年は約131万平方メートル)。これが増え続けているかを、まず確かめます。床面積が増えているのに賃貸の利益が増えないなら、賃料か稼働に何か起きたサインかもしれません。あわせて、会社のいう「安定基盤利益」(売却益を除いた部分の利益)が決算説明資料や統合報告書で金額として示されたら、配当金総額(2025年は475億円)と見比べたいと思っています。売却益を除いた利益だけで配当を賄えていれば、土台は揺れにくいと読めるからです。いまは金額が出ていないので、まずは床面積を手がかりにします。もしこの金額をどこかで見つけた方がいたら、教えてもらえると嬉しいです。次の中間決算は2026年8月ごろです。
② 借りたお金の利息が、利益を圧迫していないか 見るのは、決算短信の損益計算書、営業外費用にある「支払利息」の行です。金額そのものより、利益の伸びと比べて速いペースで増えていないかを、割合で見ます。利益がしっかり伸び続けているなら、利息が多少増えていても安心寄りに読めます。借入の区分ごとの平均利率は、有価証券報告書の「借入金等明細表」に出ます(有報は例年3月ごろ)。支払利息そのものは、四半期ごとの短信でそのつど確かめられます。
③ その年、物件をたくさん売って利益を作っていないか 見るのは、決算短信や決算説明資料の「販売用不動産」「物件売却」に関する記載です。利益の伸びのうち、売却によるぶんがどれくらいかを意識して読みます。実際、投資した有価証券の売却益などは2024年に増え、2025年に減りました(本文で触れたとおりです)。売却が少ない年でも増益を保てていれば、賃貸の地力が効いている手がかりになります。これも次の中間決算(2026年8月ごろ)から、そのつど見ていけます。
🔍 もう少し深く:注力3分野の追い風を、公的データで確かめてみた
ここは、注力3分野の世の中の追い風を、公的データで確かめた記録です。深掘りの補足なので、お急ぎの方は「おわりに」へ進んでも大丈夫です。
会社の方針だけでなく、その事業が「どうやって収益になるのか」と、その土台がどれだけあるのか(この記事では、需要の「母数」と呼んでみます)も見ておきましょう。分野ごとに、外から測れるものと測りにくいものがあるので、その違いも、そのまま書いていきます。
注力する分野その1「都心・駅近のSクラスと呼ばれる高品質なオフィス」に関する母数
はっきり確かめられるものから並べます。まず、会社自身が積み上げてきた賃貸の規模です。賃貸できる床面積は、2013年の約67万平方メートルから、2025年には約131万平方メートルへ。ほぼ倍になりました。物件は約250件で、中心は東京23区です(出典:会社IR・有価証券報告書)。この床面積が増え続けているかどうかは、これからも追える数字です(「次に見るとよいポイント」の①で使った数字です)。
土台となる地価も、公的統計で確かめられます。2026年1月1日時点の公示地価で、東京の商業地は前年比+12.2%、23区は+13.8%でした(出典:国土交通省 地価公示)。立地のいい物件を持つ会社には、資産価値の面で下支えになりそうな事実です。
「売却」のほうでは、売る土台となる不動産の価格そのものを見られます。国土交通省の不動産価格指数(商業用不動産)です。ただし四半期では振れもあります。このうちオフィスだけの指数は、2025年第3四半期に前の四半期から−5.4%と、少し弱い動きもありました(出典:国土交通省 不動産価格指数)。
一方で、ヒューリックにピンポイントで効くオフィスの空室率や募集賃料は、公的な統計には見当たらず、会社も物件ごとには開示していません。物件が売れるまでにどれくらいかかるか、を示す公的なデータも見つけられませんでした。ここは、外から測れない場所でした。だからこの記事では、確かめられる側の床面積と地価を手がかりにしています。
なお、賃貸も売却も共通して効いてくるのが金利です。金利が上がると、不動産を持つ・買うためのお金のコストが増え、価格や取引に影響しやすくなります(気をつけたいところの①で触れたとおりです)。公示地価は上昇している一方で、この点には注意が要ります。
注力する分野その2「都心型のデータセンター」に関する母数
さきに、ざっくり言うと。日本全体で見れば、データセンターには追い風が吹いています。一方、ヒューリックにピンポイントで効く母数(この事業の規模・稼働・収益)は、会社が分けて開示しておらず、見つけられませんでした。なので、市場が伸びる見込みと、それが会社にどれだけ効くかは、分けて見ておく必要があります。以下は、その材料です。
ヒューリックのデータセンターは、郊外の大型キャンパス型ではなく「都心型」を掲げています。第1号のヒューリック日本橋センター(中央区)は2025年に竣工し、江東区塩浜の開発用地などを含め、3物件で開発が進められています。通信のつながりやすさ(接続性の高さ)を訴えています(出典:会社IR 次世代アセット)。
主な使い手は、クラウドサービスを提供する事業者と、生成AIを使う企業です。日本企業の約80.6%が、何らかのクラウドを利用しています。10年前の倍以上です(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」)。生成AI(大規模言語モデル)は、学習にも利用にも膨大な計算資源を必要とします。だから、24時間動き続けるデータセンター基盤への投資が、欠かせなくなっています。
市場規模そのものの数値は、民間の調査会社の予測がもとになっているため、この記事では数字としては扱いません。ただ、国(総務省)も、生成AIとクラウドの広がりでデータセンターの需要は増えていくと整理しています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」)。あわせて、通信基盤を海外に頼りすぎないこと(自律性の確保)も課題に挙げています。国内のデータセンターには、追い風の面があります。一方、日本企業の生成AIの活用はまだ途上で、これからの伸びしろとも言えます(出典:同白書)。
整理すると、確かめられた側は「クラウドの利用率や、需要は増えていくという国の整理」で、いずれも公的資料にあたれました。これからの側は「それがヒューリックの収益に、いつ・どれだけ表れるか」で、こちらはこれからの決算で見ていくところです。
注力する分野その3「東京や主要都市のシティホテルと、高級温泉旅館『ふふ』」に関する母数
さきに、ざっくり言うと。観光客は、多くの地点でコロナ前より戻ってきています。ただ、ホテル・旅館事業の利益は2025年で17億円。会社全体の営業利益1,868億円の、約1%です。だから、需要が戻っても会社全体への効きは、いまのところ限られていそうだと思っています。以下は、それを支える材料です。
ヒューリックの観光の中心は、東京や主要都市にあるシティホテル(THE GATE HOTEL by HULIC、ビューホテルズ)です。これに、観光地で営む高級温泉旅館「ふふ」(富裕層向け)が加わります。地方リゾートを広げる形ではありません(出典:会社IR 観光事業・統合報告書)。
施設がいちばん多い東京から見てみましょう。
2024年に東京を訪れた旅行者は、日本人が約4億7,941万人、外国人が約2,479万人でした。外国人は急回復し、2024年はコロナ前(2019年)の約1.6倍と過去最高。日本人は2024年でコロナ前の9割近く(2019年比−11.7%)まで戻ってきています(出典:東京都「2024年 東京都観光客数等実態調査」)。
国内の旅行も底堅い動きです。2025年の日本人国内旅行の消費額は26.8兆円(前年比+6.5%)でした(出典:観光庁 旅行・観光消費動向調査)。シティホテルは外国人も日本人も取り込む業態なので、訪日と国内の両方が土台になります。
施設は全国に散らばっているので、地点によって戻り方は違います。観光庁の宿泊旅行統計調査(都道府県別の延べ宿泊者数)でたどってみました。東京・大阪などの都市部は、コロナ前(2019年)を大きく超えています。「ふふ」のある温泉地は、土地ごとに濃淡があります。軽井沢・日光はコロナ前超え、河口湖はほぼ横ばい、熱海はまだ戻りきっていません。総じて、多くの地点でコロナ前より戻ってきています(出典:観光庁 宿泊旅行統計調査 2024年確定値)。
ここで注意点があります。会社は施設ごとの宿泊単価・稼働率(部屋がどれだけ埋まったか)・客層を開示していません。だから、これらの母数や地域の傾向を、各施設にそのまま当てはめることはできません。「ふふ」が建つ熱海や箱根といった市町村単位の戻り具合も、都道府県の統計では切り分けられません。
施設の業態でも、稼働率の出方は違います。2025年の客室稼働率は、シティホテル74.2%・旅館38.4%でした(いずれも速報値・出典:観光庁 宿泊旅行統計)。旅館は1施設あたりの部屋数が少なく、もともと低く出やすい数字です。
ここまでが、3分野の追い風を公的データで確かめた記録です。この先の答え合わせは、これからの決算とあわせて、淡々と続けていきますね。
☕ おわりに
「ヒューリックは、これからも増配を続けられそうか」。冒頭で開いたこの問いに、未来を予測して答えることはできません。
これまでにあるのは、利益も配当も増やしてきた積み重ね。同じくいまあるのは、借入と金利のバランスや、年で振れる売却益という気がかり。どちらも、いまある事実です。
なかでも、いちばん気にしながら見ているのは、金利です。ビルを買うお金の多くは、借りたお金——金利は、この会社にとって仕入れ値に近いものでした。借りたお金で物件を増やし、家賃で利息を払いながら、残りを積み上げる。それがこの商売の形だとすると、金利が上がってきたいまは、ヒューリックの地力が試される時期なのかもしれない、と思っています。冒頭で「何が試金石になるんだろう」と書きましたが、私にとっての試金石は、ここなのかもしれません。
その先どうなるかは、これからの数字が決めます。だから私は、予想はせず、会社の方針と世の中の動きを並べながら、引き続き淡々と見ていきたいと思います。みなさんは、どう考えますか。
出典・一次ソース
各12月期 決算短信(IRBANKミラーを含む)、中長期経営計画(2026年2月公表)、会社IR(強み・配当方針・事業等のリスク・観光事業・統合報告書・次世代アセット)、国土交通省 地価公示・不動産価格指数(地価・オフィス市況)、日本銀行 金融政策・短観(政策金利・業況)、財務省 国債金利情報(長期金利)、東京都「東京都観光客数等実態調査」(東京を訪れた日本人・外国人の旅行者数)、観光庁 宿泊旅行統計調査(客室稼働率・都道府県別 延べ宿泊者数)、観光庁 旅行・観光消費動向調査(日本人国内旅行消費額)、総務省 令和7年版 情報通信白書(クラウド利用率・生成AIとデータセンター需要の動向)。会社の沿革・経営統合に関する事実関係は、会社IRおよび公表資料に基づきます。
免責
本稿は売買の推奨・勧誘ではありません。将来の株価・配当・業績を予想・約束するものではありません。参考利回りは株価により変動します。会社が示す中長期の経営計画の数値・予想・目標は会社の方針・目標であり、将来の業績や株価を約束・予想するものではありません。本文中の試算・概算は、一定の前提に基づく参考値です。記載内容には細心の注意を払っていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
著者:ミーナ/更新日:2026-06-14