あらた(2733)は、これからも増配を続けられそうか
ドラッグストアの棚の裏側で、シャンプーや洗剤を毎日届ける「日用品の卸」を営む、あらた(2733)を、17年分の決算資料で見てみました。
☕ まずは30秒だけ
あらたの売上高は、この17期で1.7倍になりました。その間に、純利益は7.8倍、1株あたりの配当は約9倍です。売上の伸びだけでは、とても説明がつきません。この差はどこから来たんだろう? と気になって、17年分の決算短信を読みました。この記事で、順番に確認していきますね。
(お忙しい方は、ここだけ読めば大筋がつかめます。気になったら下へどうぞ。)
ざっくり言うと
あらたは、化粧品・日用品・ペット用品などをメーカーから仕入れ、ドラッグストアやホームセンターに届ける卸売業です。この17年、減配は一度もありません(株式併合・分割をそろえた基準です)。ただ、会社が予想する今期の配当は据え置き。11期続いた増配が、いったん止まる予想になっています。
利回りは?
2026年3月期の実績配当112円を、株価2,604円(2026年7月17日の東京証券取引所の終値)で割ると、約4.3%です。会社が予想する2027年3月期の配当も、同じ112円(据え置きの予想)なので、予想ベースでも同じ数字になります。(実績の配当と会社予想の配当で計算した参考の数字です。株価で変わりますし、将来の配当・利回りを約束するものではありません。いずれも税引前の数字です。)
配当は年2回(中間と期末)、3月期決算の会社です。期末配当の権利が確定するのは、例年3月末です。100株以上の株主には年2回1,000円分のクオカードの優待もあります(内容は会社が変更・廃止する場合があります)。
おさえどころ3つ
① 配当は17期で約9倍。減配は一度もありません。 1株あたりの配当は、12.5円から112円へ増えてきました(株式の併合・分割があった分は、条件をそろえて比べた数字です)。純利益が半分以下に減った2015年3月期も据え置き、8.7%減益の2023年3月期はむしろ増配で、2026年3月期まで11期連続の増配です。配当のもとになる本業の現金収入(営業キャッシュフロー)も直近10期すべて黒字で、いちばん少ない年でも配当総額の3倍以上ありました。
② 利益は売上の1%。いま、コストが先に増えています。 卸売業のあらたは、純利益率が約1%。売上1兆円でも、手元に残る利益は約100億円です。あらたは「売上1円あたりの稼ぎを濃くする」ことで利益と配当を伸ばしてきましたが、直近2年は物流費や人件費、センターフィー(卸が小売の物流センターに支払う利用料)の増加で、利益が計画に届かない年が続きました。運賃や給与は、会社の判断で先に引き上げたものです。純利益率1%では、費用の増加がそのまま利益を削るため、増配のもとになる利益を出しにくい状態が続いています。
③ 計画は「投資が先、利益はあと」。今期は減益でも、配当は据え置きの予想です。 2026年5月公表の「中期経営計画2030」で、会社は2030年3月期に売上1兆1,600億円・経常利益160億円・ROE8%以上を目指すとしています。中身は、稼ぎを濃くする体質強化と、店頭での存在感拡大や機能強化(物流やITなど)への成長投資の2つです。会社は「前半は成長投資によるコスト増が収益に影響する」と説明しており、初年度の今期(2027年3月期)は純利益30.9%の減益予想。それでも配当は112円に据え置く予想です。配当性向が53.5%と高い水準になることは会社も認めたうえで、ROE8%達成への強い意志と、安定配当を強く意識した結果だとしています。予想どおりなら、11期続いた増配はいったん止まる見通しです。売り先のドラッグストア市場は11年で販売額がほぼ倍に伸びた一方、トラック運賃や最低賃金といった費用の土台も上がり続けています。この計画どおりに利益を取り戻せるかが、この先の配当を見るところになります。
ここから下は、この3つを、17年分の資料でくわしくたどった記録です。
(この記事は、ひとりの観察者ミーナの記録です。売買をすすめるものではありません。数字は会社の公表資料に基づきますが、正確性は保証しません。投資の判断はご自身で。)
🏢 あらたってどんな会社?
ドラッグストアの棚に、いつも当たり前に並んでいるシャンプーや洗剤、ティッシュ、ペットフード。よく考えてみると、あの「いつも当たり前に並んでいる」ってすごいことだなぁと思います。何万点もの商品が、毎日、全国の何万という店に、切れずに届いている。
その「届ける」を裏側で支えてきた会社のひとつが、あらたです。
ひとことで言うと、メーカーと小売店の間に立つ「日用品の卸売業」です。全国のメーカーから化粧品・日用品・紙製品・ペット用品などを仕入れ、全国38の物流センターから小売店へ届けます。2002年に、地域の有力な卸3社(ダイカ・伊藤伊・サンビック)が統合して生まれました。「地域密着型全国卸」(会社の言葉です)という、成り立ちそのままの姿です。
売り先を見ると、いまはドラッグストアが売上の半分強を占めます。2026年3月期の業態別売上は、ドラッグストア5,229億円、ホームセンター1,378億円、スーパーマーケット1,101億円、ディスカウントストア822億円という構成です(残りはGMS=総合スーパーやその他)。ドラッグストアの成長と一緒に大きくなってきた会社、と言ってよいと思います。
事業は「日用品・化粧品等の卸売業」の単一セグメント。つまり、この一本で勝負している会社です。規模は大きく、2026年3月期の売上高は1兆47億円。ただし卸売業なので、利益率はとても薄い——ここが、この会社の数字を読むいちばんの鍵になる、と私は思っています。
📊 数字でみる ― 売上1.7倍、純利益7.8倍
まず全体の形から。17期で売上高は5,899億円から1兆47億円へ、1.7倍になりました。一方の純利益は、13.0億円から101.3億円へ、7.8倍です(2013年3月期に会計方針の変更があったため、それをまたぐ売上の比較は参考値です)。
売上より利益のほうが、はるかに速く伸びた。これは「売上1円から生まれる利益」が濃くなったということです。純利益率にすると、0.2%から1.0%へ。1%と聞くと薄く感じるかもしれませんが、卸売業では、この0.1%刻みの改善が、そのまま利益の伸びになります。
(各年3月期。棒=1株配当〔右の目盛り・円〕、線=純利益〔左の目盛り・億円〕。どちらもゼロ起点です。1株配当は株式併合(2015年)・株式分割(2024年)をそろえた基準で、2011・2012・2022年3月期には記念配当を含みます。2013年3月期に会計方針の変更、2022年3月期から「収益認識に関する会計基準」が適用されています。出典:各年 決算短信)
表A 純利益・配当・配当性向・自己資本比率(17期)
| 期 | 純利益(億円) | 1株配当(円・調整後) | 配当性向 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|
| 2010/3 | 13.0 | 12.5 | 29.0% | 24.4% |
| 2011/3 | 10.2 | 17.5※ | 51.8% | 23.8% |
| 2012/3 | 16.2 | 20.0※ | 38.2% | 23.3% |
| 2013/3 | 17.7 | 20.0 | 34.9% | 23.7% |
| 2014/3 | 24.4 | 25.0 | 31.6% | 23.1% |
| 2015/3 | 11.2 | 25.0 | 68.5% | 25.4% |
| 2016/3 | 32.4 | 27.5 | 26.1% | 25.5% |
| 2017/3 | 48.6 | 32.5 | 19.6% | 26.7% |
| 2018/3 | 63.6 | 37.5 | 18.8% | 29.2% |
| 2019/3 | 69.0 | 40.0 | 20.1% | 33.0% |
| 2020/3 | 71.9 | 42.5 | 20.6% | 33.2% |
| 2021/3 | 82.0 | 47.5 | 19.8% | 35.6% |
| 2022/3 | 90.1 | 60.5※ | 22.9% | 35.4% |
| 2023/3 | 82.2 | 68.0 | 28.2% | 35.1% |
| 2024/3 | 103.2 | 92.5 | 30.5% | 34.6% |
| 2025/3 | 103.6 | 102.0 | 33.0% | 37.4% |
| 2026/3 | 101.3 | 112.0 | 37.0% | 35.7% |
- 数字はすべて各年の決算短信より。純利益は百万円開示を四捨五入で億円にしています
- 1株配当は、株式併合(2015年8月・5株→1株)と株式分割(2024年1月・1株→2株)を、いまの株数にそろえた換算値です。実際に支払われた額面は年により異なります(例:2010年3月期は5円)
- ※2011年3月期は東証二部上場、2012年3月期は東証一部上場、2022年3月期は設立20周年の記念配当(換算後各2.5円)を含みます
- 配当性向=利益のうち配当に回す割合。会社開示の値です
- 2022年3月期から「収益認識に関する会計基準」が適用され、売上高はそれ以前と単純比較できません
表Aでひとつ、目にとまるところがあります。2015年3月期です。純利益が半分以下になった年も、配当は据え置かれていました。この年に何があったのかは、後の章でたどりますね。
キャッシュ・フロー(お金の流れ)も見ておきたいので、表をもうひとつ置きますね。
表B キャッシュ・フローと配当の支え(直近10期)
| 期 | 営業CF(億円) | 投資CF(億円) | 現金残高(億円) | 配当総額(億円) |
|---|---|---|---|---|
| 2017/3 | 126.4 | △31.6 | 129.2 | 9.6 |
| 2018/3 | 116.5 | △29.2 | 171.4 | 12.6 |
| 2019/3 | 95.1 | △8.8 | 191.1 | 14.3 |
| 2020/3 | 52.6 | △27.4 | 177.8 | 14.9 |
| 2021/3 | 140.7 | △51.6 | 208.9 | 16.5 |
| 2022/3 | 65.5 | △72.1 | 193.5 | 21.1 |
| 2023/3 | 109.7 | △42.8 | 227.7 | 23.7 |
| 2024/3 | 140.6 | △53.1 | 270.2 | 32.0 |
| 2025/3 | 97.8 | △63.6 | 225.0 | 34.9 |
| 2026/3 | 186.9 | △127.9 | 386.2 | 38.6 |
- 各年の決算短信より。△はマイナス(支出)。四捨五入で億円にしています
- 営業CF=本業で稼いだ現金。投資CF=物流センターや設備、子会社の取得などへ使った現金
- 2026年3月期は、子会社3社の取得(63.1億円)や設備投資で投資CFが大きく、長期借入179.2億円と短期借入の増加64.0億円で資金を調達しています
本業の現金収入(営業CF)は、この10期すべて黒字です。配当に使う総額は、増えた今でも38.6億円。いちばん少ない年(2020年3月期の52.6億円)でも、配当の支払いを上回ってきました。ただし2026年3月期は、M&Aと設備投資を借入でまかなった年です。現金が386億円へ大きく増えて見えるのは、稼いだからだけではなく、借りたから——ここは覚えておきたい注記です。なお、この表より前にさかのぼると、2012年3月期には営業CFがマイナスだった年もあります。
📖 減配なしの17年を、会社の言葉でたどる
ここからは、各年の決算短信で会社自身がどう説明してきたかを、時系列でたどっていきましょう。
2010年〜2014年:利益率0.2%の時代と、上場の階段
この頃のあらたの純利益は、10億〜24億円。売上6,000億円前後に対してのこの水準ですから、純利益率は0.2〜0.4%です。短信には毎年のように「節約志向、低価格志向」という言葉が出てきます。デフレの時代、日用品の値段は上がらず、卸の取り分も薄いままでした。
それでも、歩みは止まっていません。2011年3月11日に東日本大震災が起き、その6日後、あらたは予定どおり東証二部へ上場します。翌年の短信には、被災地を含む全国の店頭へ生活必需品を届け続けたことが記されています。災害による損失6.7億円を計上しながら、この年は二部上場の記念配当1円を上乗せしました。翌2012年3月には東証一部へ。このときも記念配当1円です。苦しい時代の増配の一部は、こうした「節目のお祝い」の形でした。
2015年:利益半減。それでも配当は据え置き
2015年3月期、純利益は24.4億円から11.2億円へ半減します。消費税増税の反動と天候不順に加え、取引先だった白元の経営破綻(民事再生)で、売ったお金が回収できなくなる備え(貸倒引当金)を費用にしたためです。会社は「賄うことまではできず」と、率直に書いています。
それでも、配当は据え置かれました。配当性向は68.5%——17期でいちばん高い数字です。据え置きの理由を、会社は短信に書いていません。ただ、利益が半分になっても配当を動かさなかったという結果の数字に、私は配当を守る意思を感じます。この年があったから、「減配なし」の記録はいまに続いています。
2016年〜2017年:利益の体質が変わった2年
転機はここです。2016年3月期、営業利益は前年の2.3倍になりました。会社の説明は明快です。「売上総利益率の改善、物流費低減、間接部門の集約化による経費率の抑制を推進してまいりました結果」。売上も5.9%伸びましたが、それ以上に効いたのは、物流センターの統合や間接業務の集約といった、現場の地道な改善だったという説明です。
翌2017年3月期も純利益は5割増え、中期経営計画の目標を上回りました。配当はこの2年で、換算後25円から32.5円へ。「利益が増えたから配当も増える」という関係が、ここから始まります。
2017年〜2019年:成長投資と、株の増加
このころ、会社は攻めの資金調達を続けます。2016年に転換社債型新株予約権付社債(あとで株式に換えられるタイプの社債・60億円)を発行し、2018年には公募増資(新しく株を発行してお金を集めること)も行いました。調達したお金は、物流センターの建設など成長投資に向かいます。
ここで正直に書いておきたいのは、社債の株式への転換と公募増資で、発行済株式数が3年で約14%増えたことです。株が増えると、利益が同じなら1株あたりの取り分は薄まります。実際、この17期で会社全体の純利益は7.8倍ですが、1株あたり利益は7.0倍。差の分は、成長のために株主の持ち分を薄めた歴史です。それでも1株配当が9倍になったのは、薄まった分を上回って利益が伸びたからでした。
2020年〜2022年:コロナ禍でも、需要は途切れなかった
2020年春、コロナ禍が始まります。多くの会社の売上が止まった中で、あらたの数字は伸びました。巣ごもりで洗剤や紙製品、ペット用品の需要が増えました。景気に関係なく毎日使われる品を扱っていることが、この局面では追い風になりました。会社は「皆様に商品をお届けし続ける」ことを社会的使命と書きました。2021年3月期は、中期経営計画の利益目標を初年度で達成。期中には期末配当を45円から50円へ増額しています。
2023年〜2025年:最高益の裏で、計画未達が続く
2023年3月期からの3年は、増収増益の見出しの裏で、利益の計画が揺れ始めた期間です。2023年3月期は中国の出資先の業績悪化で約8億円の減損を計上し、純利益は8.7%の減益(それでも配当は68円へ増配)。2024年3月期は9期連続の増収増益と順調でしたが、翌2025年3月期は過去最高益ながら「計画未達」でした。
その中身は、読み分けが必要です。ブランド集約に伴う在庫の評価減のような一過性の費用と並んで、会社が自分の意思で「先に払った」お金があるからです。物流2024年問題では、運送会社との「協調関係を強化し」早期に運賃を引き上げた。社員の給与水準の向上は「早期化」し、パートの給与も「積極的に」引き上げた——いずれも会社自身の言葉です。運び手と働き手へ先に払うと決めた投資が、計画を上回るコストとして先に表れた、という構図でした。
2026年:売上1兆円。そして目標の引き下げ
2026年3月期、売上高は1兆円を超えました。11期連続の過去最高です。ただ、利益の予想は期中に2回引き下げられています。経常利益の目安は、もともと中期経営計画の200億円→2025年5月に180億円→期中に160億円→130億円。着地は135億円で、引き下げ後の水準は上回りましたが、当初の姿からは遠い数字です。理由として会社は、センターフィー(卸が小売の物流センターに支払う利用料)や人件費・物流費の増加、IT投資の効果が出るまでの時間差に加え、「対策が遅れた」という言葉で、対応の遅れそのものも挙げています。
売上は伸びる。でも、稼ぎを濃くする力が、コストの上昇に追いつかない——直近2年の短信からは、そんな構図が読み取れます。
冒頭の疑問——売上1.7倍で配当9倍——の答え合わせです。1株あたりの利益がこの17期で7.0倍になり(会社全体では7.8倍。株が増えた分をならすと1株では7.0倍です)、配当性向が29.0%から37.0%へ1.3倍になりました。配当約9倍の正体は、この2つの掛け算です(7.0×1.3≒9)。そして、その利益の伸びの源は「売上1円あたりの稼ぎを濃くしたこと」でした。だからこそ、いまコストの上昇でその「濃さ」が試されていることが、次の配当の話に直結します。
🧭 会社が掲げる目標「中期経営計画2030」
次は、会社が示している計画を見てみましょう。この章に出てくる目標や計画はすべて会社が公表しているもので、達成が約束されたものではありません。出典は「中期経営計画2030」(2026年5月公表)と2026年3月期の決算説明資料です。
会社は2026年5月、長期経営ビジョン2030の最終フェーズとして「中期経営計画2030」を公表しました。テーマは「強さを磨き、未来を拓く」。2030年3月期の目標は、売上高1兆1,600億円、経常利益160億円、ROE(自己資本利益率)8%以上です。足元の実績(売上1兆47億円・経常135億円・ROE8.4%)から見ると、売上を1,550億円、経常利益を25億円積み増す計画になります。
内容は2つです。1つ目は「体質強化戦略」です。
売上総利益率の改善、販管費率の抑制、グループ会社の収益性改善を進めます。
2つ目は「成長戦略」です。
店頭での存在感(インストアシェア)の拡大、新しい成長づくり、それらを支える機能強化(物流やITなど)への投資です。2016年に利益の体質を変えたときと同じ路線を、もう一度やり切る計画、と読めます。
この計画の資料で目にとまったのは、前の計画の結果が数字つきで載っていることです。売上は目標の1兆60億円に対して1兆47億円と、わずかな未達まで書き、経常利益は目安を期中に引き下げた経緯ごと開示して、「コストコントロールや資本収益性に課題が残り、経常利益は減益、ROE目標は未達」と自己評価しています。届かなかった数字を、次の計画書に自分で書ける会社の資料は、読んでいて信頼できます。
そのうえで、直近の事実も並べます。計画の初年度である今期(2027年3月期)の会社予想は、売上1兆300億円(増収)に対して、経常利益105億円・純利益70億円の大幅な減益です。会社は「前半は成長投資によるコスト増が収益に影響する」と、最初から減益を織り込んだ計画だと説明しています。ROEの予想も5.6%へ下がります。2030年の「経常160億円・ROE8%」へ向かう道は、まず今期の大幅な減益から始まります。この減益の年に、会社が配当をどうするのか。それが次の話です。
配当については「配当性向30%を意識しながら安定配当・増配を図る」が会社の方針です。そして今期の予想は112円の据え置き。会社はこう説明しています。「配当性向は53.5%と今後の成長投資を考えると高い水準となりますが、中計2030の最終年度には収益を向上させ、ROE8%を達成するという強い意志を示すとともに、安定配当を強く意識した配当予想としております」。減益の年に、配当だけは下げない予想を出す——2015年の据え置きと同じ選択を、会社はまた掲げたことになります。
⚖️ 気をつけたいところと、支えになりそうなところ
ここからは、リスクや弱みを並べてみます。それぞれ、要点を最初の一行に書きますね。
気をつけたいところ
① 増配の記録は、今期でいったん止まる予想です。 会社の予想どおりなら、11期続いた増配は据え置きに変わります。前の章で見た53.5%という予想配当性向は、方針の「30%を意識」を大きく超える水準で、利益がさらに減れば配当を保つ余力は薄くなります。なお、過去には期中に配当を引き上げた年もあります(2021年3月期)。予想は確定ではなく、上にも下にも動きうる数字です。
② 利益の計画が、2年続けて未達・下方修正でした。 2025年3月期は計画未達、2026年3月期は期中に2回の下方修正。原因はいずれもコスト側(物流費・人件費・センターフィー・IT投資の効果の遅れ)です。純利益率1%では、コストの1%の上振れが利益を大きく削ります。「稼ぎを濃くする」計画が実行できるかは、これからの数字で確かめるしかありません。
③ 成長投資は、借入と株式で調達してきた歴史があります。 2026年3月期はM&Aと設備投資を借入でまかない、過去には転換社債と公募増資で株式数が約14%増えました。今回の買収では、のれん(買収額のうち相手の純資産を上回って払った分)も86.3億円増えています。純利益101.3億円の会社にとって小さくない金額で、買収先が計画どおりに育たなければ、減損として一度に損失になりえます。
支えになりそうなところ
① 17期、減配していません。 利益が半減した2015年3月期も、減益だった2023年3月期も、配当は維持か増配でした。※過去の配当実績は、将来の配当を約束するものではありません。
② 本業の現金は、配当を大きく上回ってきました。 営業CFは直近10期すべて黒字で、最も少ない年(52.6億円)でも配当総額(当時14.9億円)の3倍以上。配当の原資という意味では、余裕を残した配り方です。
③ 需要が景気に左右されにくい商売です。 シャンプーや洗剤は、不況でも買われます。コロナ禍でも増収増益だったことは、生活必需品×全国物流網という土台の証明だと、私は受け取っています。
📌 次に見ようと思っているポイント
これからの決算で、私はこんなところを見ようと思っています。予想ではなく、「どの資料の、どの数字を見るか」の話です。
① 経常利益105億円の予想が、どこに着地するか。 四半期ごとの決算短信で見られます。直近2期はコストが計画を上回る展開が続いたので、今期は計画どおりに進むのかが、中期経営計画2030全体の信頼度の手がかりになると思います。
② 据え置き予想の配当が、期中にどう扱われるか。 決算短信の「配当の状況」欄で毎回確認できます。2021年3月期には期中に増額した実績があり、逆に業績がさらに崩れたときに53.5%という性向をどこまで許容するのか。「配当性向30%を意識」という方針の言葉が、高い性向の年にどう説明されるかを見ていきます。
③ 売上総利益率と販管費率の差。 この差は、おおまかに言えば本業のもうけ(営業利益率)です。「売上1円あたりの稼ぎ」を取り戻せているかが、この2つの率の差に表れます。決算説明資料で確認できます。センターフィーや物流費の増加を、価格や効率でどこまで吸収できているか。もし「ここも見ると良いよ」という数字をご存じの方がいらっしゃいましたら、教えてもらえるとうれしいです。
🔍 もう少し深く ― 売り先は伸びているか、費用は上がっているか
ここは、あらたの売り先(ドラッグストアなどの小売業態)と、物流費・人件費の土台が、世の中でどうなっているのかを、公的データで確かめた記録です。深掘りの補足なので、お急ぎの方は「おわりに」へ進んでも大丈夫です。
① ドラッグストア(売上の半分強)
経済産業省の商業動態統計によると、ドラッグストア全体の年間販売額は、この11年でほぼ倍になりました。2014年の4兆9,375億円が、2025年には9兆4,129億円です。店舗数も13,069店から20,373店へ増えています。小売のなかでも、例外的に伸び続けてきた業態です。あらたの売上の半分強は、この伸びる業態に乗っています。
ただ、売り先が強くなることと、卸の取り分が増えることは、別の話です。前の章で見たセンターフィーの増加は、強くなった売り先との関係の中で起きています。業態の追い風と、取引条件の向かい風——因果は決めつけず、この2つを並べて見るところだと思っています。
② そのほかの売り先
売上の半分強を占めるドラッグストアの次は、ホームセンター(1,378億円)、スーパー(1,101億円)、ディスカウントストア(822億円)と続きます。業態別の前年比は、ドラッグストア102.3%、ホームセンター98.1%、GMS90.8%でした。この並びは、売り先そのものの統計と重なって見えます。経済産業省の商業動態統計では、ホームセンター全体の販売額は2014年の3兆3,452億円から2025年の3兆3,917億円へと、11年でほぼ横ばいでした。スーパーは13兆3,699億円から16兆8,026億円へ増えました。ただ、伸びの主力は飲食料品(9兆711億円→13兆6,428億円)で、日用品の棚が同じ速さで伸びたかまでは読み取れません。前年比90.8%と最も落ちているGMSと、ディスカウントストアの販売額は、この統計に区分がなく、外からは測れませんでした。
売り先の伸び縮みが、そのまま卸の伸び縮みになる——単一セグメントの卸らしい形です。
③ 土台の土台=世帯
日用品の需要のいちばん下の土台は、人と世帯です。総務省の国勢調査では、人口は減り始めた一方、世帯の数は増え続けています。2025年の速報値では、人口1億2,305万人(前回比2.5%減)に対し、世帯数は5,712万5千(同2.3%増)。1世帯あたりの人員は2.15人まで小さくなりました。歯ブラシのように人の数だけ要るものと、洗剤のように世帯にひとつあればよいものでは、この統計の意味が変わります。「人口は減る・世帯は増える」——この2つの事実を、そのまま並べるにとどめます。
④ 費用の土台=運ぶ料金と、働く人の賃金
この17期の後半で利益の計画を揺らしてきたのは、物流費と人件費でした。その世の中側の水準も、公的データで見てみます。
トラック輸送の料金は、日本銀行の企業向けサービス価格指数(道路貨物輸送)で確かめられます。2020年の平均を100とした指数は、2026年5月時点で111.9。この1年だけでも3.8%上がりました。
働く人の賃金の土台は、最低賃金です。厚生労働省の資料によると、全国加重平均は2014年度の780円から2025年度の1,121円へ、11年で1.4倍になりました。2025年度の引き上げ額66円は、過去最大です。
どちらも会社の外側で決まり、上がり続けてきた数字です。前の章の、運び手と働き手へ「先に払う」という判断は、この流れの中で行われたものでした。
利益の計画を揺らした費用には、もうひとつ、センターフィー(卸が小売の物流センターに支払う利用料)があります。こちらは支払いの総額や売上に対する率が開示されておらず、外からは測れませんでした。決算資料から分かるのは「増えている」という方向だけなので、方向だけを受け取り、大きさの推測はしないことにします。
☕ おわりに
「あらた(2733)は、これからも増配を続けられそうか」。冒頭で開いたこの問いに、未来を予測して答えることはできません。
確かなのは、利益が半減した年も配当を据え置いた17期の実績と、直近10期の本業の現金が配当を上回ってきたお金の流れです。気がかりなのは、今期が大幅な減益予想で、増配の記録がいったん止まる予想になっていること。そして、利益の計画が2期続けて下振れしてきたことです。どちらも、いまある事実です。
私のものさしは、ひとつです。売上1円あたりの稼ぎを濃くするという、この会社が2016年に一度やり切った変化を、コストが上がり続けるいまの環境でもう一度実行できるか。配当性向53.5%という高い水準の予想で「安定配当を強く意識」と掲げた会社が、その言葉をどう果たしていくのか。中期経営計画2030の最初の1〜2年は、この会社の配当への向き合い方が、いちばんよく表れる期間になると思っています。
その先どうなるかは、これからの数字が決めます。だから私は、予想はせず、四半期ごとの短信と年に一度の決算説明資料を並べながら、引き続き淡々と見ていきます。
みなさんは、どう考えますか。
出典・一次ソース
- 各年の決算短信(2010年3月期〜2026年3月期・17期分):株式会社あらた。2014年3月期以降はIRBANKのミラー、2013年3月期以前は会社IRライブラリより取得
- 「中期経営計画2030」の策定に関するお知らせ(2026年5月14日):株式会社あらた
- 中期経営計画2030 解説ページ・株主還元ページ・会社概要・沿革(2026年7月12日閲覧):株式会社あらた ウェブサイト
- 2026年3月期 決算説明資料(2026年5月14日)・ファクトブック:株式会社あらた
- 第1回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行(2016年6月2日)・新株式発行及び株式売出し(2018年7月)・通期業績予想の修正(2025年11月12日・2026年2月10日):株式会社あらた 適時開示
- 商業動態統計(経済産業省):ドラッグストア・ホームセンター・スーパーマーケットの年間販売額と店舗数(2014年・2025年)
- 国勢調査 2025年速報値(総務省):人口・世帯数
- 企業向けサービス価格指数 2026年5月速報(日本銀行):道路貨物輸送
- 「最低賃金(全国加重平均)の引上げ額と引上げ率の推移」(厚生労働省)
- ドラッグストア・ホームセンター・スーパー(百貨店・スーパー)販売額:経済産業省「商業動態統計」時系列データ(e-Stat・2026年7月12日取得)
- 世帯数・人口:総務省統計局「国勢調査」(令和2年確定・令和7年速報)
免責
このページは、個人が公開情報をもとに作成した観察の記録です。投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は記事中に明記した時点のものであり、正確性・最新性を保証するものではありません。会社の予想・目標は会社が公表した時点のものであり、達成を保証しません。過去の配当・業績の実績は、将来の配当や業績を保証しません。試算は前提つきの参考値です。投資の判断は、ご自身の責任でお願いします。
著者:ミーナ 更新日:2026年7月19日